予想外の流れ
「スペル発動リストア」
バエルのアセスを退けたが満身創痍のローレライに対しエルクリッドはまずは治療を行い、メイレインの傷を癒やす。完全とまでは行かずとも次の戦いをするには十分であり、ローレライも鎌首をもたげ臨戦態勢を維持する。
(これでバエルのアセスは四体やられた……そろそろマーズを出さないと魔力が足りなくなるはず)
アセスが撃破されブレイク状態となった際のリスナーへの反射は魔力を割合で削る。その割合はリスナーの魔力の総量の一割から二割程で、最低でもバエルは四割合程を喪失しその上でスペルの発動、アセスの維持と能力行使といった必要経費を踏まえ半分程まで減らしているとエルクリッドは読む。
バエルの最強のアセスであるマーズは極めて強力な力を有し、バエルであろうと負担はかなりのもの。今ここで召喚するか、しない場合はデュオサモンをせずに単体での戦いをせざるを得ない。
確実に追い込んでいる、それは間違いない。だが気を抜けば一瞬でひっくり返してくる、それがバエルというリスナーと熟知しエルクリッドが身構えると、バエルはカードを引き抜き次のアセスを呼ぶ。
「デュオサモン、マーキュリー、ビーナス、いけ」
ドスンと重々しい着地音と共に紫色の雫を滴らせる毛むくじゃらの魔獣カトブレパスのマーキュリーがぬうっと首を持ち上げ、その隣に岩の翼を持つ巨鳥ルフのビーナスが現れ重さで地面にヒビが走る。
バエルがここに来てまだマーズを出さない事にエルクリッドは違和感を覚え、また、注意深く魔力を探知するとバエルの魔力がそこまで減っていないとわかり眉をひそめた。
(確かにアセスはブレイク状態になってるはず……何をしたっていうの?)
一瞬脳裏をよぎるのは外法や密造カードといったものだが、すぐにエルクリッドはぶんぶんと首を横に振って頬を叩きそれはないと思い直す。
誰よりもリスナーであり、リスナーたらんとする姿勢を貫徹し続けているバエルが姑息な手や禁断の手段を用いる事は断じてない。それは彼への恨みを懐いていた頃から変わらない、それ以前の時から今現在まで穿く彼の信念だと。
だからこそバエルが何らかの手段で魔力の喪失を抑えているのがわかる。どんなものかはわからない、確実なのはエルクリッドの想定していた作戦が静かに崩れ始めているという感覚が強まっているという事だ。
(でも、やるだけやらなきゃね。ローレライ、引き続きお願いね)
気を引き締め直したエルクリッドに応えるようにローレライが頭を向けながら身体を光らせ、それからマーキュリーとビーナスの方に向き白煙を噴出させ二体の足下まで広げる。
直後にビーナスが重々しく翼を広げ力強く羽ばたいて浮き上がり、マーキュリーもまたぬうっと体に対し異常なまでに大きな頭を上げて臨戦態勢へ。
カトブレパスのマーキュリーが毒を含む水魔法を使い、ルフのビーナスは岩の羽根による質量攻撃を空から降らせてくる布陣と単純ながらも厄介な組み合わせであり、バエルの謎もありエルクリッドは慎重に戦い方を組み立てていく。
(マーキュリーの毒水は間欠泉みたいに噴き出すものだから気をつけないとね。ビーナス……ルフの方はぶつかるだけでも脅威だから気をつけつつ……)
「スペル発動アクアソーサリー、ローレライを対象とする」
エルクリッドが戦術構築を思考してる瞬間にバエルがカードを切る。青の水がローレライに絡みつき、同時にマーキュリーの毛に隠れる単眼が怪しく光りローレライの真下から紫の水流が噴き出し全身を隠す。
さらにそこへビーナスがばらばらと羽根を落としてローレライに直撃させ、アクアソーサリーの拘束が解けてローレライも反撃せんとするも毒に侵され身体が痺れやがて倒れ伏してしまう。
「スペル発動エスケープ!」
咄嗟にエルクリッドがエスケープのカードを使ってローレライをカードへ戻し、直後にビーナスが落下しその重量で地面を砕く。
戦術を考える猶予を与えず一気に攻め込む、隙を狙い畳み掛けられた事にエルクリッドはローレライが受けたのと同じ痛みを全身に感じるものの、色彩が失われたローレライのカードをしまって深呼吸し心を落ち着ける。
(あたしがもう少し早く思考できてれば……うぅん、今は次を考えなきゃ)
戦いの流れがバエルへ傾くのをエルクリッドは肌で感じながらも両頬をパンっと叩いてゴーグルを上げ前を見据えた。
残るアセスはスパーダ、セレッタ、ヒレイ、初めてバエルと遭遇した時既にいたアセス達、ダインとローレライ以上にこの戦いへの闘志を燃やす仲間達だ。
バエルのアセスはこれまで遭遇した中で使ったものは記憶しており、残るアセスの種類名前はエルクリッドも把握している。それを踏まえて次のアセスを選ぶ、冷静に、大胆に、戦いの流れを変える為に、勝利の為に。
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