決戦への準備ーPrepareー
彼女である理由
その時が来る。
その時が来た。
だからすべき事をする。
だからできる事をする。
心を定める事を。
技を磨く事を。
体を鍛える事を。
そしてさらなる仕上げを行って頂へと向かう。そこに君臨する者と同じ場所に立ち、勝利する為に。
ーー
火の国サラマンカのブレイズ山脈地帯に移動式の住居を構える一族
(流石にカラードさん強かったな……ノヴァ達もまだ戻らないし、もう寝よ……)
傷は癒えども疲れは抜けず、魔力の回復の為の食事もできない程に疲れ果てているのを実感しつつ、そのままエルクリッドは目を瞑る。
ノヴァ達はカラードとの戦いの後すぐにバエルへ挑めるようにとカードの調達を依頼し、二組に分かれて集めてもらっていた。枚数はもちろん種類も必要である事もあり時間がかかるのは想定はしている事だが、やはりすぐにとは行かない。
心地よい温かさに身を委ね癒やされながらエルクリッドが深い眠りにつくとしばらくしてから帰還したノヴァが天幕に静かに入り、眠るエルクリッドを見つけると起こさないように静かに動き、遅れて来たタラゼドもエルクリッドが安堵した様子で眠ってる事から勝敗を察しつつ破れた服を手に取り、柔らかな白い光を放つ手をかざして裂けた部分を直していく。
「タラゼドさん、エルクさんは……」
「カラードに勝てたようですね。相応に疲れ果ててしまったようですから、このまま寝かせてあげましょう」
言葉を交わしてる間に魔法で服の修繕を済ませ丁寧に畳んだタラゼドは静かに微笑みつつ、彼女が起きてからするであろう事を考えノヴァにエルクリッドの服を渡すとある事を伝えた。
「ノヴァ、わたくしは少し出かけてきます。恐らくエルクリッドさんが起きた時に言ってくる事があるでしょうから、その準備を済ませてきます」
「それはわかりましたけど……何をするのですか?」
いつになく神妙な面持ちなタラゼドから何かを感じたノヴァが彼を見上げながら訊ねると、少し苦笑い気味に秘密ですと返しタラゼドは背を向け出入口の方へ歩みつつ、静かに思いを語る。
「わたくしはかつてこの世界を仲間と共に見回りました、今もまた同じように……そしてかつて友がやり残した事を果たす為に、今を生きる彼女の為に、わたくしはその橋渡し役をするのです」
そう語ってタラゼドが出て行ってからノヴァはエルクリッドの服を彼女の鞄の傍に置きつつ、タラゼドの言葉を思い返す。
かつて彼はエルクリッドの師でもある十二星召クロスと旅をし、その旅には水の国の現王レビアやクロスの妻ルイ、
もちろん全てを聞いたわけではない、だが今のエルクリッド達との旅で知った事から推測できること、タラゼドが言うやり残した事というのにバエルが関わってるとだけは確信が持てた。
(バエルさんは他の五曜のリスナーの皆さんを喪って……それが、やり残した事、なんでしょうか? どうしてエルクさんならって考えるのでしょうか……?)
しばらくノヴァは考えてみるもののすぐには浮かばず、だが首を横に振って軽く頬をぺちっと叩いてから情報を整理し直し、これまでの旅ややり取り等を振り返ってみる。
(クロスさんになくて、エルクさんにあるもの……エルクさんはバエルさんに似てるって言われてたけど、それ、なのでしょうか。でも……)
クロスになくてエルクにあるもの、似ているだけではないものがあるとしてもそれだけでは弱いと感じ一旦ノヴァは思考をやめた。
情報から考えていても仕方ないもの、来たるべきエルクリッドとバエルの戦いを見ない事にはわからないと。
とりあえず自分ができる事をとノヴァは考え、薄手の敷布を眠るエルクリッドにそっとかけてやる。
(エルクさん……ゆっくり休んでくださいね)
心でそう思いながらノヴァが寄り添うとエルクリッドの表情に笑みが浮かぶ。良い夢を見てるのか、あるいはノヴァの思いを感じて応えたのかはわからない。
ノヴァはそれを見てほんの少し役に立てた気がしてはにかみつつ、隣に寝そべりそのままエルクリッドじっと見つめるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます