星彩の召喚札師ⅩⅢ

くいんもわ

燃える闘志

烈火流星

 灼熱の舞台が炎をより盛んに燃やし尽くす中で彼女は戦い続ける。エルクリッド・アリスター、傷ついた身体の痛みなど意に介さず手にするカードへ魔力を込めその名を呼ぶ。


「赤き流星よ、願いを明日へ繋ぐ希となって光輝け! いくよ、冀現星竜きげんせいりゅうヒレイ!」


 天に舞い上がる赤き光が炎を帯びながら再び降り立ち、姿を現すは赤き外骨格を纏う白き鱗の火竜ヒレイ。その美しくも雄々しく、強い思いが具現化したような相手を前に十二星召カラードは高鳴る鼓動を感じながら上衣から腕を出し、強き闘志が刻まれた炎の入墨に呼応し明滅する。


「真化したファイアードレイクか……色々懐かしいもんはあるが、オイラが興味あんのは強えかどうか、勝つか負けるかだからな……!」


 カラードの言葉に呼応して金属音の混じる咆哮で威嚇し臨戦態勢に入るは真紅の魔力の鎧を纏うサラマンダー・マグナ。ヒレイも同じように吼えて威嚇し臨戦態勢となり、刹那に両者真っ向から突撃して頭をぶつけ合って後ろへ飛ばされ、しかしすぐに踏み留まるとヒレイは白き炎を吐きマグナは紅蓮の炎を吐いて反撃しぶつかる炎が爆発を起こす。


 刹那、爆炎を突き抜け上空へと飛び立つはヒレイ。それを追う形でマグナも炎の翼を羽ばたかせながら炎を吐いて攻撃し続け、それを避けるヒレイへエルクリッドが腰のカード入れよりカードを引き抜き魔力を込めるも、カラードがカードを使おうとしてるのを見て使うのを待った。


「ツール使用ドラゴンブレイカー! 突破させてもらうぜ!」


 マグナの右腕が鋭い直接の刃を持つものへと変わり、風を切り裂き進むマグナが一気にヒレイの上を取り刃を振り下ろす。ドラゴン殺しの名を持つ剣ドラゴンブレイカーの刃がヒレイの外骨格を僅かに掠め、すぐに突き出される刃をヒレイは腕を掴み空中で回転しながら強引に腕ごと引き抜こうとするも動きに合わせマグナも飛翔し、両者揉みあったまま岩盤を削りながら落下していく。


「ドラゴンブレイカーを真正面から受け止める奴はバエルのマーズ以来だ! 面白ぇな!」


「それはどーも、でも、あたし達が勝ちます!」


 高鳴る闘志に身を委ね言い放つカラードへエルクリッドも快活に返し、それと同時に崖へ擦りつけられ体重をかけられたドラゴンブレイカーをヒレイが叩き折る。

 その瞬間にカラードが目を奪われた時、エルクリッドが使うのを待ったカードを手のひらに立たせ一気に握り潰す。


「スペルブレイク、ドラゴンハート!」


 赤き光を纏ったヒレイがマグナの顎を強引に開けてその中へ直接白い炎を吐き続け、紅蓮の炎の身体が白き炎に包まれたマグナが一瞬膨らみ破裂するように真紅の鎧を砕かせ消滅した。


 その反射がカラードの全身に亀裂のように走って血が飛び、己の敗北を悟りながらも不敵に笑みを浮かべながら拳を前に突き出し、彼は勝者へ言葉を贈る。


「楽しかったぜ……流石、だ、な」


 片膝をつき項垂れるカラードに一礼してエルクリッドは応えるように拳を突き出し、ヒレイが降り立つと共にそちらへ目を向け笑顔を見せてから抱きつく。


「やっっっ……た! 勝てたよヒレイ!」


「お前の判断も冷静で的確だったのはある。それにセレッタとダインも頑張ったからな……」


 喜ぶエルクリッドの頭を指で撫でつつヒレイが少し姿勢を崩し、それが揉みあった時に身体についた傷によるものと気づき、エルクリッドの身体にもその傷が現れ服が裂けた。

 それほど集中できていたとも言えるが、改めてヒレイをはじめとするアセス達のおかげというのも再認識し、エルクリッドはヒレイをカードへ戻し絵柄を見つめてからカード入れへと戻す。


(これで、次は……)


 カラードに勝利したを噛み締めながらエルクリッドは右手を見つめ強く握り締める。星彩の儀における二次試練、五曜のリスナーにして世界最強と言われるバエル・プレディカとの戦いに挑めるからだ。


 既に挑戦権自体はあったものの、彼に挑む前にカラードとの戦いを終えておきたかったというのと、彼と戦い実力を示す事である事を聞いておきたかったという理由とがエルクリッドにはあった。

 大の字に寝てからあぐらをかいて座り込み上衣を着直すカラードの前へエルクリッドが歩み寄り、目の前で座って目線を合わせつつ深呼吸をし単刀直入に問いかける。


「あのっ、今のあたしはバエルの奴に勝てますか?」


「いきなりだな」


 面を食らった心地ではあれどカラードは腕を組んで目を瞑って考え、少ししてから目を開きエルクリッドが耳を傾けるとゆっくりと言葉を選ぶようにそれを話す。


「半々、って言いてぇが、あいつも強くなってるのを考えると判断しづれぇな……ま、嬢ちゃんの強さはオイラもお墨付きってのは確かさ」


 日々精進、研鑽していく。それはリスナーであろうとなかろうと営みとしてあり、最後まで走り切れるかは本人次第のもの。


 バエルが強さに傲る事なく今この瞬間も研鑽していると思うとエルクリッドはカラードが答えに困ったのを理解しつつ、彼がお墨付きと言ってくれた事は受け入れ自信とした。

 だがまだ足りないと心が感じて思い悩むと、それを見たカラードがある事を提案する。


「物足りねぇってーなら、バエルに挑む前にタラゼドと手合わせしたらどうかい?」


「タラゼドさんと、ですか?」


 今はこの場にいないタラゼドの名前を出されエルクリッドが顔を上げると、小さく頷いてからカラードはその理由を述べつつ何処からともなく出した瓢箪を開けて酒を飲む。


「オイラのマグナでアセスフォースをしても効果が違うもんになるし、何より火属性のアセスしかいねぇからな。全ての属性に精通してそれらが全部高い水準で使いこなせる魔法使い……タラゼドの魔法を全部対応できりゃ五分くらいになる、と思うぜ」


 バエルのアセスであるマーズは火竜ファイアードレイクであり、火の精霊サラマンダーのマグナとは根本的に異なる。そしてファイアードレイクをアセスフォースの対象として使った際のそれは強力な火炎弾による攻撃であり、マーズのものは必殺の業火だ。


 マーズ以外のアセスも水準が高く魔法を扱える者も存在し、それらを対バエルを想定した戦術を学ぶという意味ではタラゼドはうってつけの人材と言える。


(……もしかしなくても、タラゼドさんはそこまで見越してるのかな? いや、さすがにそれはない、こともないかな)


 カラードからの提案を受けてエルクリッドは常にタラゼドが自分を見守り支え続け、必要な時は道を示してくれた事を思い返す。

 それらは自分の師でありタラゼドやカラードと共に旅をしていたクロスの想定であると思うと、その意味も今はなんとなく感じ取れた気がした。


「わかりました、あたし……タラゼドさんとやってみます」


「とりあえず先に戻ってな、オイラはもーちょい一人で反省会してっから」


「はい、ありがとうございましたカラードさん、先戻ってますね」


 立ち上がって頭を深々と下げてから小走り気味にエルクリッドは舞台から立ち去り、一人残ったカラードは彼女が完全に見えなくなってから肩をなでおろしつつ空を見上げ、噴煙の合間から覗く夕焼けを見ながら言葉を漏らす。


「五曜のリスナー、か……バエルの奴は、どうするつもりなのかね……」


 夜の帳が下ろされた空に星が瞬き、それに向かってカラードは瓢箪を掲げ酒を飲む。


 それは先立った者達へのものか、今に生きてしまった戦友へのものかは、彼にしかわからない。未来への道も、また、その刹那が来るまではわからない。



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