第九話『地下資源(サブテラニアン・リソース)』
二ヶ月の期限ギリギリで、オークの砦を包囲する防衛網が完成した。 領主や住民は歓声を上げ、この谷に平和が戻ることを確信していた。オークたちは砦に閉じ込められ、兵糧攻めは順調に進むはずだった。
しかし、コウスケの顔は晴れない。彼の【万物積算】は、完成した包囲網の内部、オークの砦の「資材残量」を正確に示していた。
【対象:オークの砦】
【資材残量:食料(肉、穀物)継続的に補充中】
【資材残量:武器(簡易弓、石斧)継続的に生産中】
「…どこかに、地下からの供給路がある」
コウスケは確信した。オークたちが狙う『古代遺跡』こそが、その供給路、あるいは彼らの活動の真のエネルギー源なのだと。
◇
コウスケは、レオとクララ、そしてドワーフ王ギムレットの精鋭たちと共に、オークの砦の地下に広がるという『古代遺跡』の調査へ乗り出した。 砦の地下深く、隠された入り口から、一行は薄暗い地下道を進む。そこは、人間やドワーフの建築様式とは全く異なる、不気味で堅牢な構造物だった。コウスケの【万物積算】は、その建材を分析する。
【対象:地下構造物(古代遺跡の一部)】
【構造安定性:S(極めて堅牢)】
【建材:未知の鉱石と、魔法的結界】
【潜在的エネルギー:莫大(用途不明)】
スキルは、遺跡が何らかの魔法的なエネルギーによって機能していることを示唆するが、その詳細は読み取れない。
地下遺跡は、単なる通路ではなかった。突然、床が崩れ落ちたり、隠された矢が飛び出したりする「古代の罠」が、一行を襲う。 レオが罠を解除しようと、力任せにレバーを操作するが、全く歯が立たない。ギムレットも、ドワーフの知識では解析できない古代の仕掛けに苦戦する。
しかし、コウスケは落ち着いていた。彼は【万物積算】で罠の構造をスキャンし、さらに罠の周囲の建材や、床に残されたかすかな傷跡、レバーの摩耗具合までを分析する。
「…これは、仕掛け自体が脆弱ではない。操作手順が違うんだ」
彼の解析によれば、この罠は特定の建材の配列を特定の順番で押すことで解除される、まるでパズルのような構造になっていた。コウスケは、古代遺跡を「巨大な建築物」として捉え、その「設計者の意図」を読み解こうとする。
罠を突破し、一行が遺跡のさらに奥へと進むと、突然、奇襲を受ける。 待ち構えていたのは、オークの精鋭部隊だ。彼らは、地下道を知り尽くしており、地形を利用した待ち伏せ攻撃を仕掛けてくる。
狭い通路での近接戦闘。レオとギムレットが奮戦するが、オークたちは、なぜかこの遺跡の構造を熟知しているように見えた。
「なぜだ…彼らが、この遺跡を、ここまで使いこなせるはずが…!」
クララが、地下道に描かれた不鮮明なルーン文字を指差す。
「あれは…魔術師の結界!?」
戦闘の最中、一行の前に、オークを率いる黒いローブの魔術師が再び姿を現す。 魔術師は、冷酷な笑みを浮かべ、コウスケたちに強大な魔法を放つ。その魔法は、空間そのものを歪め、ドワーフの岩をも砕くほど強力だった。コウスケは、その魔法の放たれる「法則」を【万物積算】で解析しようとするが、あまりにも高度で読み取れない。
「ここは、彼らにとっての『ホーム』だ。一旦、撤退するぞ!」
◇
コウスケたちは、決死の覚悟で地下から脱出する。オークの追撃を振り切り、間一髪で包囲網の外へ。 地上に戻ったコウスケは、地下から吸い上げたオークの拠点に関する地質データを、壁の地図に投影する。
「オークたちは、この遺跡の魔法的なエネルギーを使って、食料や武器を生成している。そして、あの魔術師は、この遺跡を完全に制御している」
彼は、地図上の『古代遺跡』の場所を指差す。
「彼らの真の目的は、この谷の地下に眠る、莫大な『魔力資源(マナ・リソース)』を支配することだ。この戦争を終わらせるには、我々が、この遺跡を『再設計』するしかない」
コウスケの視線は、地図の中心、最も濃い魔力反応を示す一点に固定されていた。 遺跡の再設計。それは、コウスケにとって、これまでで最も困難で、最も壮大な「建築プロジェクト」の始まりだった。
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