『俺達のグレートなキャンプ135 管理人さんを救え!超巨大ハチの巣駆除』
海山純平
第135話 管理人さんを救え!超巨大ハチの巣駆除
『俺達のグレートなキャンプ135 管理人さんを救え!超巨大ハチの巣駆除』
「ようこそ、星空キャンプ場へ!」
長野県の山間にある小さなキャンプ場。管理人の佐藤さん(推定60代、温厚そうなおじさん)が笑顔で三人を迎えてくれた。受付カウンターには、手作りのウェルカムボードと、この地域の観光マップが貼られている。
「いやー、久しぶりの長野ですね!空気が美味しい!」
石川がテンション高く声を上げる。両手を広げ、深呼吸する。その姿はまるで子供のようだ。
「本当ですね、気持ちいい!」
千葉も笑顔だ。新しいキャンプ場にワクワクが止まらない様子。
「まあ、普通にキャンプできればいいんだけど...」
富山が小さくボソッと呟く。その目には、若干の不安の色が。石川と一緒だと、まず普通に終わらないのを知っているからだ。
「はい、ごゆっくりどうぞ。あ、でも...」
佐藤さんの表情が曇った。眉間に深い皺が刻まれ、視線が窓の外へ向けられる。その顔には明らかな疲労と困惑が浮かんでいる。
「でも?」
三人が同時に首を傾げる。
「実は、ちょっと困ったことになってましてね...」
佐藤さんが重い口を開く。その声には、長い間抱え続けた悩みの重さが滲んでいる。
「管理棟の裏手の崖に、巨大なハチの巣ができちゃったんですよ。もう、どの業者に電話しても『こんな巨大なの見たことない』『うちでは対応できません』って断られちゃって...」
「巨大って、どれくらいですか?」
富山が心配そうに尋ねる。
「全長50メートル...いや、もしかしたらもっと大きいかもしれません」
「ご、50メートル!?」
三人の声が揃う。
「ええ。スズメバチの変異種らしくて...しかも、巣も大きいけど、一匹一匹のハチも...その、通常の三倍くらい...」
「三倍!?」
千葉が目を見開く。
「明日、ようやく専門業者さんが県外から来てくれることになったんですけど...おかげで、今日まで他のお客さんが全然来なくて...」
佐藤さんの肩が落ちる。長年営んできたキャンプ場への愛情と、どうにもできない無力感が、その背中に表れている。
そのとき、石川の目がキラリと光った。
富山は即座に察知した。「まずい」。この目つきは、絶対に何か突飛なことを考えている目つきだ。
「富山、千葉」
石川が振り返る。その顔には、あの危険な笑みが浮かんでいる。
「まさか...」
富山が震える声で言う。
「俺達のグレートなキャンプ135!テーマは『管理人さんを救え!超巨大ハチの巣駆除』だ!!」
石川が両腕を天高く掲げ、高らかに宣言する。その声は管理棟全体に響き渡る。
「はああああ!?」
千葉が素っ頓狂な声を上げる。
「ちょ、ちょっと待って!私たち、ハチの巣駆除なんてやったことないのよ!?しかも50メートルって、ビル並みよ!?」
富山が両手を激しく振り、必死に制止しようとする。
「大丈夫大丈夫!こういうのはノリと勢いだって!それに、佐藤さんを助けられるなんて、最高にグレートじゃないか!」
「ノリと勢いでどうにかなる問題じゃないでしょ!!相手、ハチよ!?刺されたら死ぬのよ!?」
富山の声は完全に悲鳴だ。
「ちょ、ちょっと、お客さん...明日、業者さんが来ますから...」
佐藤さんが慌てて止めようとする。
「いやいや、明日じゃ遅い!今日駆除すれば、明日からすぐにお客さん呼べるじゃないですか!」
「そういう問題じゃ...」
「佐藤さん!俺達にお任せください!」
石川が親指を立てる。その自信満々な笑顔に、佐藤さんは言葉を失う。
「石川、俺、スズメバチに刺されたら、本気で死んじゃうよ...?」
千葉が青ざめた顔で言う。
「大丈夫って!俺達、今まで134回も『奇抜でグレートなキャンプ』してきたじゃん!毎回なんとかなってるでしょ!」
「前回、富山さん、クマに追いかけられたよね?」
「細かいことは気にしない!」
「細かくないでしょ!!」
富山と千葉の同時ツッコミ。
「よーし、じゃあ早速、実物を見に行こう!百聞は一見にしかずだ!」
石川が管理棟を飛び出していく。
「あああ、待ってよ、石川!」
千葉が慌てて追いかける。
「はぁ...もう...」
富山がため息をつきながら、仕方なく後を追う。
管理棟の裏手、標高差を利用して作られた崖。その中腹に、それはそびえ立っていた。
「うわああああぁぁぁぁっ!!」
千葉の絶叫が山々に響く。
目の前に広がる光景は、まさに地獄絵図だった。全長50メートル、いや、下手したら60メートルはあるかもしれない。灰色で巨大な球体。まるで宇宙船のような、不気味で圧倒的な存在感。
その表面には、幾何学的で複雑な模様が刻まれ、無数の穴が開いている。そして、その周りを飛び回るハチたちは...
「で、でかい...」
富山が息を呑む。
通常のスズメバチの三倍。いや、それ以上かもしれない。一匹一匹が手のひら大。体長は15センチほどもあろうかという巨大さ。羽音もそれに比例して大きい。ブンブンブンブンという音が、空気を震わせ、内臓に響く。
「これ...本当にハチ...?」
千葉が震える声で尋ねる。その顔は真っ青だ。
「お、おお...想像以上だね!」
石川の声も、さすがに若干震えている。それでも目は輝いている。
「想像以上じゃないでしょ!これ、絶対無理でしょ!?業者さんに任せようよ!明日まで待とうよ!」
富山が石川の腕を掴んで引っ張る。
「いやいや、でも、見てよあれ」
石川が指差す。
崖の下、管理棟の裏庭には、子供用の遊具がある。ブランコや滑り台。そして、その近くには「夏季シーズンは子供向けイベント開催中」の看板。
「ハチたちが時々、あの辺りまで飛んできてるんだよ。これじゃあ、子供たち危ないでしょ?」
「それはそうだけど...」
「だから、今夜やるんだよ!」
石川の目に、決意の炎が灯る。
「ちょ、今夜!?」
「もちろん!夜ならハチの動きが鈍るって、ネットに書いてあった!」
「ネット情報!?」
富山が叫ぶ。
「大丈夫大丈夫!さあ、準備だ!」
石川が腰のリュックからタブレットを取り出す。準備が良すぎる。最初から計画していたに違いない。
「ふむふむ、ハチの巣駆除に必要なのは...防護服、殺虫剤、そして長い棒か何か...あとは度胸と根性!」
「最後、精神論じゃん!!」
千葉がツッコむ。
時刻は午後4時。日没まで約3時間。
「よーし、まずは街に出て、装備を揃えよう!」
「装備って...」
「ホームセンター行くぞ!グレートな買い物だ!」
石川が両手を上げて叫ぶ。
車で30分ほどの距離にあるホームセンター。
「えーと、防護服、防護服...」
石川が店内を駆け回る。
「これなんかどう?」
手に取ったのは、農作業用の白いつなぎ。
「これ、ただの作業着じゃない?」
富山が冷静にツッコむ。
「でも、厚手だし、白いからハチも刺激しないでしょ!」
「そういう問題じゃ...」
「よし、これ三着買う!あと、顔を守るやつ...」
石川が視線を巡らせる。
「これだ!」
手に取ったのは、養蜂家が使う防護ネット付きの帽子...ではなく、金属製のザル。
「ちょ、それザルじゃん!」
千葉が叫ぶ。
「でも、穴が小さいから、ハチ入ってこないでしょ!完璧!」
「完璧じゃないでしょ!!」
だが、石川は既にレジに向かっている。
「殺虫剤は...おお、これだ!」
手に取ったのは、ホームセンターで売っている一般的なスプレー式殺虫剤。しかも通常サイズ。
「それで50メートルの巣に対抗するの...?」
富山の声は完全に諦めのトーン。
「大丈夫、数で勝負だ!えーと、十本買おう!」
「十本て...」
そして、最後。
「あとは...おお、これだ!」
石川が見つけたのは、草焼きバーナー。ガスボンベ式の、庭の雑草を焼くための道具。
「これ、何に使うの?」
千葉が不安そうに尋ねる。
「いざという時の最終兵器だよ!火炎放射器代わり!」
石川が得意げに説明する。
「火炎放射器って...山、燃えるよ!?」
「大丈夫大丈夫!ちゃんと水も用意するから!」
そして、大量の買い物を終えて、キャンプ場に戻る。
午後7時。すっかり暗くなった山の中。
テントを設営した後、石川、富山、千葉の三人は、新調した「装備」に身を包んでいた。
白い作業着、頭にはザル(内側から布ガムテープで固定してある)、手には軍手、そして...
「これ、本当に大丈夫なの...?」
富山が自分の姿を見下ろす。まるで怪しい宗教団体か、パフォーマンス集団だ。
「大丈夫大丈夫!さあ、いくぞ!」
石川が先頭に立つ。その手には殺虫スプレーが三本。千葉も三本、富山も三本。そして石川の背中には、草焼きバーナーと予備のガスボンベ。完全武装だ(素人的に)。
「で、作戦は?」
千葉が震える声で尋ねる。
「簡単だよ!巣の入り口に殺虫剤を噴射して、ハチたちを弱らせる!そのまま一気に巣全体に噴射!完璧でしょ!」
「全然完璧じゃないでしょ!!」
富山のツッコミも空しく、三人は巨大な巣へと近づいていく。
月明かりが薄く地面を照らしている。気温は下がり、肌寒い風が吹いている。懐中電灯の光が、地面を照らす。
巣まで、あと50メートル。
「ブンブンブンブン...」
低く、重い羽音が聞こえてくる。夜になっても、まだハチたちは活動しているようだ。
「いしかわぁ...やっぱりやめよう?明日まで待とう?」
千葉が小声で懇願する。
「大丈夫、夜だから動きは鈍いって!」
あと30メートル。
巨大な巣が、月明かりの下、不気味なシルエットを作っている。表面がゆらゆらと動いているように見える。
あと20メートル。
「う、うわ...」
富山が息を呑む。
巣の表面に、無数の巨大なハチが張り付いているのが見える。一匹一匹が手のひらサイズ。その数、数千匹...いや、数万匹かもしれない。
あと10メートル。
「よし、ここで十分だ!準備はいいか!?」
石川が振り返る。
「い、いいわけないでしょ!?」
富山が叫ぶ。
「三、二、一...」
「待って待って待って!」
千葉が慌てる。
「噴射ぁぁぁぁ!!」
石川が巣の入り口目掛けて、殺虫スプレーを噴射する。白い霧が空中を飛んでいく。
「しゅううううう!!」
富山と千葉も、仕方なく噴射する。
三人分の殺虫剤が、巣の入り口に吸い込まれていく。
「よし、効いてる効いてる!」
石川が興奮気味に叫ぶ。
だが、次の瞬間。
「ブゥゥゥゥゥゥゥンンンン!!!」
轟音だった。
まるで爆発したかのような羽音が、山全体を震わせる。
そして、巣の入り口から...
「うわああああああ!!!」
黒い塊が飛び出してきた。
巨大なハチの大群。数百匹、いや、数千匹。手のひらサイズの巨大スズメバチたちが、怒り狂って襲いかかってくる。
「にげろおおおお!!」
石川が叫ぶ。
三人が一斉に走り出す。
「きゃああああ!」
富山が悲鳴を上げる。
「うわああああ!」
千葉も叫ぶ。
だが、ハチたちの速度は尋常ではない。通常のスズメバチより大きい分、羽ばたきも力強い。あっという間に距離を詰めてくる。
「ブゥゥゥゥン!」
一匹のハチが千葉の背中に体当たりする。
「うぎゃああ!」
千葉が前のめりに倒れそうになる。作業着越しでも、その衝撃の強さが伝わる。
「ちばぁぁぁ!」
「大丈夫、刺されてない!でも、痛い!めちゃくちゃ痛い!」
「とにかく走れ!」
三人は全力で走る。後ろから、無数の羽音が追いかけてくる。
「ブゥン!ブゥン!」
次々とハチたちが体当たりしてくる。まるで小型のドローンがぶつかってくるような衝撃。
「いたたたた!」
石川の背中に三匹が同時に激突。
「石川!」
「大丈夫、まだ刺されてない!でも、このままじゃ...」
そのとき、目の前に小屋が見えた。キャンプ場の物置小屋だ。
「あそこだ!飛び込め!」
三人が小屋のドアを開け、転がり込む。
「バタン!」
ドアを閉める。
外では、無数のハチたちが小屋に激突し続けている。ドンドンドンドンという衝撃音が響く。まるで銃弾が当たっているような音だ。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
三人が肩で息をする。
「い、石川ぁ...」
千葉が震える声で言う。
「ご、ごめん...想像以上だった...」
石川も珍しく弱気な声。
「想像以上じゃないわよ!あれ、普通のハチじゃないわよ!?一匹一匹が重いし、速いし、激しいし!」
富山が叫ぶ。
「そうだよ!体当たりの衝撃、半端ないよ!あんなの、何百匹も相手にしたら、作業着あっても危ないよ!」
千葉も涙目だ。
「う、うーん...」
石川が考え込む。外では、まだハチたちが小屋を攻撃し続けている。ドンドンドンドン。その音が、三人の心臓と同期しているようだ。
十分ほど経過しただろうか。
外の音が徐々に小さくなってきた。
「お、おさまってきたかな?」
石川が小声で言う。
「でも、まだいるよ...」
千葉が窓から外を覗く。まだ数十匹のハチが、小屋の周りを飛び回っている。
「どうする?このまま朝まで?」
「いや、佐藤さんに連絡して...」
富山が携帯を取り出す。
だが、そのとき。
石川の目が、小屋の隅に置かれているものに留まった。
農作業用の灯油缶。そして、古い火炎放射器。本物の、プロが使うような大型のものだ。
「お、おお...」
石川の目が輝く。
「まさか...」
富山が嫌な予感を感じる。
「これだよ!これがあれば!」
石川が火炎放射器を手に取る。重そうだ。金属製で、灯油タンクが本体に取り付けられている。ノズルは1メートルほどの長さ。
「ちょっと待って、それ...」
「火炎放射器だよ!本物の!これなら、あの巨大な巣も焼き払える!」
「焼き払える?山も一緒に燃えるんじゃないの!?」
富山が叫ぶ。
「大丈夫、周りに水撒いておけば!」
「そういう問題じゃ...」
「よし、作戦変更だ!」
石川が立ち上がる。その目には、再び決意の炎が。
「え、まだやるの!?」
千葉が信じられないという顔。
「もちろん!ここまで来たら、やるしかないでしょ!佐藤さんのために!キャンプ場のために!そして、俺達の『グレートなキャンプ』のために!」
石川の言葉に、なぜか胸が熱くなる。バカげている。危険だ。無謀だ。でも、なぜか引き込まれる。
「はぁ...もう、仕方ないわね...」
富山がため息をつく。
「そうだよ、どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!」
千葉も覚悟を決めた顔。
「よし、じゃあ作戦会議だ!」
石川が小屋の真ん中に座り込む。三人で円を作る。
「まず、火炎放射器の射程を確認する。この型なら、約10メートルくらい飛ぶはず」
石川が説明する。
「巣まで10メートル以内に近づかなきゃいけないってこと?」
「そう。だから、囮が必要なんだ」
「囮!?」
「俺が正面から囮になる。富山と千葉は、左右から回り込んで、巣に近づく。そして、俺がハチたちの注意を引いている間に、火炎放射器で巣を焼く!」
「待って待って、石川が危ないでしょ!?」
富山が反対する。
「大丈夫、俺は殺虫スプレー撒きながら逃げ回るから。それに、この作業着、意外と頑丈だったでしょ?」
確かに、さっき何度も体当たりされたが、刺されはしなかった。
「でも...」
「大丈夫だって!それに、これは俺が始めたことだから。責任取らなきゃ」
石川の真面目な顔を見て、富山と千葉は言葉を失う。
「わかった。でも、危なくなったら、すぐ撤退よ?」
「もちろん!」
「俺も、全力でサポートするよ!」
三人が手を重ねる。
「よし、いくぞ!」
小屋のドアを開ける。
外はすっかり静かになっていた。ハチたちは巣に戻ったようだ。
「よし、装備確認」
石川:殺虫スプレー五本、草焼きバーナー
富山:火炎放射器(灯油満タン)
千葉:消火用水が入ったバケツ三個、予備の殺虫スプレー
「準備完了」
三人が巣に向かって歩き出す。
月は中天に昇り、明るく地面を照らしている。風は止み、静寂に包まれている。まるで嵐の前の静けさ。
巣まで、あと100メートル。
「それじゃあ、作戦開始。富山、千葉、左右に分かれて」
「了解」
富山が左へ、千葉が右へ回り込み始める。
石川は正面から、堂々と巣に近づいていく。
あと50メートル。
「ブンブンブン...」
羽音が聞こえ始める。
あと30メートル。
巣の表面で、ハチたちが動き始めた。侵入者を察知したようだ。
あと20メートル。
「おーい、こっちだよ!」
石川が大声で叫ぶ。
「ブゥゥゥゥン!!」
巣から、数十匹のハチが飛び出してくる。
「よし、来い!」
石川が殺虫スプレーを噴射する。
「しゅううう!」
白い霧が広がる。
ハチたちは一瞬怯むが、すぐに石川に向かってくる。
「わぁぁぁ!」
石川が走り出す。ハチたちが追いかけてくる。
その隙に、富山と千葉が巣の両脇に回り込む。
「今だ、富山!」
「了解!」
富山が火炎放射器を構える。重い。予想以上に重い。両手で支え、ノズルを巣に向ける。
「えい!」
トリガーを引く。
「ゴオオオオオオ!!」
炎が噴き出す。赤い、熱い、激しい炎。
その炎が、巨大な巣の表面に触れる。
「ジュウウウウウ!!」
巣の表面が燃え始める。灰色の表面が黒く焦げ、赤い炎が広がっていく。
「やった!」
だが、次の瞬間。
「ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
今までとは比較にならない、恐ろしい羽音。
巣全体が、まるで生き物のように揺れ動く。
そして、入り口から、無数のハチたちが一斉に飛び出してきた。
「う、うわあああああああ!!!」
富山が悲鳴を上げる。
ハチの大群。数千匹、いや、数万匹。巨大なハチたちが、まるで黒い津波のように襲いかかってくる。
「富山、逃げろ!!」
千葉が叫ぶ。
だが、ハチたちの一部は富山へ、そして残りは石川と千葉へと向かう。三方向に分かれて攻撃してくる。まるで組織的な軍隊のように。
「ブゥン!ブゥン!ブゥン!」
無数の体当たり。
「いたたたた!」
千葉の体に、次々とハチが激突する。作業着の上からでも、その衝撃が伝わる。まるで野球ボールを投げつけられているような痛み。
「千葉、こっちだ!」
石川が殺虫スプレーを噴射しながら、千葉のもとへ走る。
「しゅううう!」
白い霧の中を、石川と千葉が走る。
一方、富山は。
「きゃああああ!」
無数のハチに囲まれていた。
「ブゥン!ブゥン!」
次々と体当たりされる。頭、肩、背中、腰。まるでボクサーのサンドバッグ状態。
「いたぁぁぁ!」
だが、富山は火炎放射器を手放さない。
「このぉぉぉ!」
トリガーを引き続ける。
「ゴオオオオ!」
炎がハチたちを薙ぎ払う。
「ジュウウウ!」
炎に触れたハチたちが、次々と墜落していく。
「そうだ、火が効く!」
富山が気づく。
「富山、そのまま巣を!」
石川が叫ぶ。
「了解!」
富山がノズルを巣に向ける。
「ゴオオオオオ!!」
炎が巣全体を包み込む。
灰色の表面が、みるみるうちに真っ赤に燃え上がる。
「ブゥゥゥゥン!ブゥゥゥン!!」
燃え上がる巣から、さらに無数のハチたちが飛び出してくる。もはや数え切れない。空を覆い尽くすほどの大群。
「うわああああ!!」
千葉が叫ぶ。
ハチたちの攻撃は、さらに激しくなった。まるで組織化された軍隊のように、三人を取り囲む。
「ブゥン!ブゥン!ブゥン!」
石川の背中に五匹が同時に激突。
「ぐわあ!」
石川が膝をつきそうになる。
「石川!」
千葉が駆け寄り、殺虫スプレーを噴射する。
「しゅううう!」
だが、ハチたちの勢いは止まらない。
「このままじゃ、やられる!」
富山が火炎放射器のトリガーを引き続ける。炎が空中を舞うハチたちを焼く。
「ジュウウウ!」
数十匹のハチが墜落。
だが、すぐに別のハチたちが攻撃してくる。
「くそぉ!キリがない!」
石川が草焼きバーナーを取り出す。
「石川、何するの!?」
「火には火だ!」
石川がバーナーに点火。
「ゴオオ!」
小さいながらも、強力な炎。
石川が360度、バーナーを振り回す。
「来るなああああ!」
炎が円を描く。近づいてきたハチたちが、次々と炎に触れて墜落する。
「よし、この調子だ!」
三人が背中合わせになる。石川が草焼きバーナー、富山が火炎放射器、千葉が殺虫スプレーを噴射し続ける。
まるで合戦だ。
火と殺虫剤で作られた防御円の中心に三人。その周りを、無数の巨大ハチたちが飛び回る。
「ゴオオオ!」「しゅううう!」「ゴオオ!」
炎と霧が混じり合い、幻想的な光景を作り出す。月明かりに照らされ、まるで異世界の戦場のよう。
「ブゥン!」
一匹のハチが突破してくる。
「あぶない!」
千葉が咄嗟に殺虫スプレーを噴射。ハチが怯む。
「ゴオオ!」
石川がバーナーで追撃。ハチが墜落。
「よし、連携だ!」
三人の呼吸が合ってくる。
「左から来る!」
「了解!」
富山が火炎放射器を左に向ける。
「ゴオオオ!」
ハチの群れが焼かれる。
「右からも!」
「任せて!」
千葉が殺虫スプレーを噴射。
「上から急降下!」
「おっと!」
石川がバーナーを上に向ける。
三人の戦いは、もはや芸術の域に達していた。息の合った連携攻撃。まるでアクション映画のワンシーンだ。
そして、富山の火炎放射器が、巣の中心部に到達する。
「ゴオオオオオオ!!」
猛烈な炎が、巣の内部に侵入する。
「メリメリメリ...!」
巣の表面が崩れ始める。
「やった!効いてる!」
だが、巣の内部から、さらに激しい羽音が。
「ブゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
まるで爆発したような音。
そして、巣の中心から、一匹の巨大な影が飛び出してきた。
「な、なんだあれ!?」
千葉が目を見開く。
それは、女王蜂だった。
体長30センチ。他のハチの倍以上。漆黒の体に、金色の模様。月明かりに照らされ、まるで悪魔のような威圧感。
「ブゥゥゥゥゥゥン!!」
女王蜂の羽音は、他のハチとは比べ物にならないほど重く、低い。
「うわぁぁぁ!」
女王蜂が石川に突進してくる。
「石川、危ない!」
富山が火炎放射器を女王蜂に向ける。
「ゴオオオ!」
だが、女王蜂は炎をかいくぐる。驚異的な機動力。
「くそぉ!」
石川が横に飛んで回避。
「ドスン!」
女王蜂が地面に激突。その衝撃で地面が揺れる。
「こ、これやばいって!」
千葉が震える声で言う。
女王蜂が再び飛び上がる。その目が、富山を捉える。
「こっちに来る!」
「来なさい!」
富山が覚悟を決める。火炎放射器を女王蜂に向け、トリガーを全開に。
「ゴオオオオオオオオ!!!」
今までで最大の炎。5メートル以上の火柱が、女王蜂に向かって噴き出す。
「ブゥゥゥン!」
女王蜂が回避しようとする。
だが、その時。
「今だ!」
石川と千葉が左右から草焼きバーナーと殺虫スプレーを噴射。
三方向からの攻撃。
「ゴオオ!」「しゅううう!」「ゴオオオオ!」
炎と霧が女王蜂を包み込む。
「ブゥゥゥ...」
女王蜂の羽音が弱まる。
そして、ゆっくりと地面に墜落していく。
「ドスン!」
地面に激突。もう動かない。
「や、やった...?」
千葉が信じられないという顔。
だが、女王蜂が倒れた瞬間。
他のハチたちの動きが止まった。
「ブン...ブン...」
まるで司令塔を失ったように、ハチたちがふらふらと飛び始める。
そして、一匹、また一匹と、燃え盛る巣に向かって飛んでいく。
「お、おい、ハチたちが...」
石川が呟く。
ハチたちは、燃え盛る巣に次々と飛び込んでいく。まるで、女王と共に果てる覚悟を決めたように。
「ジュウウウ!ジュウウウ!」
次々とハチたちが炎に包まれ、墜落していく。
そして、最後の一匹が巣に飛び込むと同時に。
「ゴオオオオオオオオ!!!」
巣全体が、巨大な火柱となって燃え上がった。
赤い炎が、夜空を照らす。まるで巨大な篝火のよう。
「わぁぁぁ...」
三人が呆然と見上げる。
炎は数分間燃え続け、そして、徐々に小さくなっていく。
「メリメリメリ...バキバキバキ...」
巣の構造が崩壊していく音。
そして、ついに。
「ドゴオオオオン!!」
巣が崩れ落ちた。
巨大な灰色の塊が、地面に落下。衝撃で地面が揺れる。
燃え盛る残骸。もう、原型はない。
「お、終わった...?」
千葉が震える声で尋ねる。
「ああ...終わった...」
石川が膝をつく。
「やったあああああ!!」
富山が両手を上げて叫ぶ。
「やったああああ!!」
三人が抱き合う。
「やったよ、富山!千葉!」
「うん、やったね!」
「最高にグレートだったよ!」
三人が笑い合う。
だが、その時。
「いたっ...」
石川が背中を押さえる。
「どうしたの?」
「あ、あれ?なんか、チクチクする...」
「え?」
富山が石川の背中を見る。
作業着に、無数の小さな穴が開いている。
「ま、まさか...」
「あ、あれ?俺も...」
千葉が自分の腕を見る。同じく、無数の小さな穴。
「え、え、え?」
富山が自分の服を見る。やはり、穴だらけ。
そして、三人が同時に気づく。
興奮していて気づかなかったが、実は刺されまくっている。
「いたぁぁぁぁぁ!!」
三人の悲鳴が、夜空に響き渡った。
翌朝。
「痛い痛い痛い...」
管理棟の前に停まった救急車。
ストレッチャーに乗せられた石川、富山、千葉の三人。
全身が腫れ上がっている。まるで風船のよう。
「刺された箇所、石川さん127か所、富山さん98か所、千葉さん115か所...よくぞご無事で...」
救急隊員が呆れた顔で言う。
「大丈夫、大丈夫...ちょっと腫れてるだけ...」
石川がかすれた声で言う。その顔は、もはや誰だかわからないほど腫れている。
「大丈夫じゃないでしょ!すぐ病院です!」
救急車が走り出す。
病院。
「バカモノォォォォ!!」
医師の怒号が、診察室に響く。
「ハチの巣駆除を素人がやるものではない!しかも、あんな巨大なものを!命がいくつあっても足りませんよ!!」
60代の厳格そうな医師が、真っ赤な顔で怒鳴る。
「すみませぇぇぇん...」
三人が縮こまる。全身包帯だらけ。
「スズメバチの毒は、アナフィラキシーショックを起こすんですよ!?あなた方、本当に運が良かった!もう少しで死んでましたよ!」
「本当に、申し訳ございませぇぇぇん...」
「今後、このような無謀なことは絶対にしないように!わかりましたか!?」
「はぃぃぃ...」
三人の声が揃う。
「まったく...点滴打って、一週間は安静にしてください。以上!」
医師が診察室を出ていく。
「...」
三人が沈黙。
「...ねえ」
千葉が小声で言う。
「なに?」
「でも...ちょっと楽しかったよね?」
「...」
富山が千葉を見る。
「...バカ言わないでよ」
だが、富山の口元には笑みが浮かんでいる。
「まあ、確かに...最高にグレートだったな」
石川も笑う。
「もう、あなたたちは...」
富山も笑い出す。
三人が笑い合う。
包帯だらけで、腫れまくって、医者に怒鳴られて。
でも、不思議と後悔はない。
なぜなら、これが『俺達のグレートなキャンプ』だから。
病室の窓から、山々が見える。
あのキャンプ場の方角。
佐藤さんから、後で連絡があった。
「業者さんが驚いてました。もう完全に駆除されてたって。あなた方のおかげです。本当にありがとうございました」
嬉しそうな声だった。
「でも、医療費は持ちますよ!それと、生涯、うちのキャンプ場は無料でどうぞ!」
「いや、医療費だけで...」
「いいんです!あなた方は、うちのキャンプ場の恩人ですから!」
そんなやり取りもあった。
「さて」
石川が言う。
「次は何しようか?」
「次!?まだやるの!?」
富山が叫ぶ。
「当たり前でしょ!これで135回目。まだまだいくよ!」
「もう、懲りないんだから...」
「でも、次は何かな?『富士山頂で流しそうめん』とか?」
千葉が目を輝かせる。
「おお、それいいね!」
「いやいや、『東京湾でマグロ釣り』とかどう?」
「それもいいね!」
「あなたたち...」
富山がため息をつく。
だが、その顔は笑っている。
病室の外、廊下では。
「ねえ、見て。あの三人」
「何?」
「包帯だらけなのに、めちゃくちゃ笑ってるよ」
「変な人たちだね」
「でも、なんか楽しそう」
看護師たちが微笑ましそうに見ている。
そう、これが『俺達のグレートなキャンプ』。
失敗しても、怪我しても、怒られても。
みんなで笑い合える。
そんな最高にグレートで、ハチャメチャな冒険なのだ。
「よし、じゃあ次のキャンプのために、まずは完治だ!」
「おー!」
三人が拳を突き上げる。
「痛っ!」
全員が悲鳴を上げる。
腫れた腕が痛い。
「もう...」
それでも、三人は笑っている。
窓の外、青空が広がっている。
次の冒険の舞台は、どこだろう。
『俺達のグレートなキャンプ』は、まだまだ続いていく。
そう、136回目の冒険へ。
病室のドアが開く。
「面会の方が来てますよ」
看護師が言う。
入ってきたのは、佐藤さんだった。両手にお見舞いの花束と果物。
「や、やあ、佐藤さん!」
石川が慌てて起き上がろうとする。
「いやいや、寝てて寝てて!」
佐藤さんが笑顔で手を振る。
「本当に、ありがとうございました。おかげで、今日からもうお客さんが来始めてるんですよ!」
「本当ですか!?」
「ええ!それに、あなた方の戦いを見てた他のお客さんが、SNSに動画を上げたらしくて、バズってるらしいですよ!」
「え?」
佐藤さんがスマホを見せる。
画面には、三人が火炎放射器と草焼きバーナーでハチと戦っている動画。
「【神回】素人キャンパーvs超巨大ハチの巣!まるで映画のような死闘!」
再生回数:500万回。
「うわぁぁぁ!」
三人が叫ぶ。
「これ、テレビ局からも取材依頼が来てるらしいですよ!『奇跡体験!アンビリバボー』とか!」
「まじですか!?」
「ええ!あなた方、有名人になりますよ!」
「やったああああ!」
石川が両手を上げる。
「痛っ!」
腫れた腕が悲鳴を上げる。
「もう...」
富山と千葉が呆れた顔。
でも、笑っている。
みんな、笑っている。
こうして、『俺達のグレートなキャンプ135』は、予想外の大騒動で幕を閉じた。
次は一体、どんな冒険が待っているのだろう。
石川、富山、千葉の三人の『グレートなキャンプ』は、まだまだ続いていく。
どんなに危険でも、どんなに無茶でも、どんなに怒られても。
三人が一緒なら、どんなキャンプも最高にグレートになる。
それが、『俺達のグレートなキャンプ』なのだから。
<完>
―後日談―
一週間後。
完治した三人は、再び集まっていた。
「さて、次のキャンプは?」
石川の目が輝く。
「まだ懲りてないの...?」
富山がため息。
「当たり前でしょ!さあ、次は『俺達のグレートなキャンプ136』!テーマは...」
石川が立ち上がり、両手を広げる。
「『富士山頂で回転寿司パーティー』だ!!」
「絶対無理でしょ!!」
富山と千葉の同時ツッコミが、部屋に響き渡った。
だが、三人の顔には笑顔がある。
次の冒険への期待に、胸を膨らませながら。
『俺達のグレートなキャンプ』は、今日も明日も、これからも続いていく。
<本当の完>
『俺達のグレートなキャンプ135 管理人さんを救え!超巨大ハチの巣駆除』 海山純平 @umiyama117
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます