東京都市跡地

 朝、テントを出るとそこには、昨日の焚き火の名残があった。


 昨晩、水をかけて自ら灯を消した時の、あの体が蒸発していくような名残惜しさを感じた。


 リズは、もう椅子に座っていた。


「おはよう、朝が早いな」


「ええ、いい朝ね」


 リズは少し笑っていた。


 朝は、弱い。


「そういえば、AIも寝るのか?」


「寝ることで、充電ができるの。人間とさほど変わらないわ。体で生み出す電力をその時だけ増やして蓄電するのよ」


「なるほど、効率的だな」


 話を聞く限り、やはりとても理にかなう構造になっている。


 少し落ち着くと、昨日の話を思い出した。


 この近くに俺の故郷があるはずだ。


 だとしたら、破壊されたあとの姿だとしても、目に焼き付けたい。


「この辺に、海中都市があるはずだ。そこにいきたい」


 リズはきょとんとした顔を浮かべた。


「何故?」


「そこが、俺の故郷なんだ。日本の第1海中都市、新東京へ」


「行きたいなら行かせてあげるけど、状況はおそらく凄惨よ。それでも覚悟があるなら、いきましょう」


「行こう」


 リズは頷いた。


「じゃあ、テントを片付けるわよ!」


 スコポスを含む護衛用のAI達は他のAI達を起こしに行った。


 やがてだんだんと増えてきたAI達は、テントを片付け始めた。


「彼らは協力を知っている。もちろん、私みたいにすべて一人で完結できるAIもいるわ。でも、その子達はまだ、協力を知らない。私達は、軍隊用のAIだったから、大勢でいないといけないような構造になってるの」


「人と人は、一人では何もできないから協力している。そういった意味ではAIも人間と変わらないのかもしれないな」


 AIとの戦力差をずっと感じていた俺にも少しAIが可愛らしく見えてきた。


 みると、テントを片付け終わったようだ。


「じゃあ、行こうか」


 俺がAI達にそういうと、AI達は嬉しそうにそれぞれ反応してくれた。


 俺はリズと先頭を歩き始めた。


 木々の間を抜け、田畑を越え、過去の都市跡地に出た。


 約150年前、地球温暖化の影響で暑すぎて地上に出られなくなった人間は、ここを捨て、海の中に都市を作り、そこに移動した。


 以降、ここは冬のみガイド付きのツアーができた。


 昔、親父と行った。


「そういえば、リズは月にいた時、俺に抱きついてきたりしていたじゃないか。あれは、俺に漬け込むためか?」


「さあ、私には説明できないわ」


 彼女は顔を赤くしていた。


 確か、ここをずっと進んだ奥の方に、海に出る場所があったはずだ。


「ええと、昔、港区と呼ばれていたところまで行かなければいけないのね。あと2日程かかるかしら」


 何日かかけて、ツアーをやった気がする。


 港区への旅は、親父との思い出が多く蘇る旅だ。

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