夜の番人

 宇宙船の中にはまんまキャンプ道具が入っていたが、それは何百年前から変わらない。


 組み立てなければいけないというデメリットを除けば、コンパクトでかつ、実用的だ。


 AI達は、崩した身体を組み立て始めた。


 最初の1人目は、リズが組み立て、その後は1人、また1人と体を組み立てていった。


「人間にバレずに月に着陸できるのは、体を崩せるおかげで宇宙船の規模をだいぶ小さくできるからよ」


 そう考えると、人間よりもAIの方が、よほど実用的だ。


 そうこう話しているうちに、AI達はみな、元通りになり、次にテントの作成に取り掛かった。


「すごいな、疲れないのか?」


「基本、AIの体力は無限、そして何より、仕事をすることが本能となるように設計されているわ」


「AIの設計は、AIがしているのか?」


「ええ、もちろん」


 俺はAIにはやはり勝てないと実感した。


 テントが10個ほど完成し、AI達はそれぞれその中に入っていった。


「どう?心を整理したいなら、焚き火でもしてみる?」


「焚き火か、懐かしいな。やりたい」


 リズはちょっと待っててと手で合図したあと、落ちていた小枝や葉っぱを使って焚き火を組んでいった。


 外に残っていたAI達が、俺とリズのために二つのイスを用意した。


 AI達は、足代わりに車輪が二つ、そして四角い金庫のような胴体と、腕を二つ、頭を一つ持っている。


 体の構造的にも、座るという行為ができないようだ。


 俺達の身長の二分の一程の彼らは、俺が椅子に座ると、笑顔を浮かべた。


「でハ、ごゆっくりどウゾ」


 そついってAIは、その場にとどまった。


「テントには入らないのか?」


「自然の環境には危険があります故、私は見張り番とシテ、ここにとどまりマス。他にも何体かおりまスヨ」


 見れば、確かに同じように静かに佇むAI達がいた。


「申し遅れまシタ。私の名はスコポス。古代ギリシャ語で、番人という意味デス」


「いい名前じゃないか」


 スコポスは少し浮かれた様子で先ほどまでいた場所に戻った。


 リズは椅子に座った。


 目の前には、パチパチと炎が静かに宿っていた。


「出来たわ」


 暗い外の世界と対照的に、炎はメラメラと力強く俺達を照らした。


 月にはなかった静けさがある。


「月世界は、常に喧騒の中だったから、まあ、平和っていいもんだな」


 11月とはいえ、地球温暖化の影響で、ほどよく暖かい。


「おい、ちょっと待て。ここはどこだ?」


 気候についてのみ考えれば、ここはまさか……


「ここは、ついこの前まで、AIに敗北する前まであった強大国の元首都、トーキョーよ」


「もしかして、近くに……俺の故郷が……」


 本当だったら今すぐ飛び出したいところだが、その衝動を抑えてくれたのは、依然として燃え続ける焚き火だったのだろうか。

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