変わり果てた世界

 地面に降り立つと、子供の頃踏みにじった土が、俺の宇宙防具をそっと包んだ。


「その服、もう外していいわよ」


 そうだ、地球だ。


 俺は宇宙防具を脱いで中の防具用スーツだけになった。


「懐かしいな……」


 澄んだ空気、快晴に光る太陽、気持ちよく広がる緑、全て月地下には無かったものだ。


「ようやく、ここに戻ってこれた」


 俺はしばらくの間、ここで感じられるものすべてを全身で感じ取った。


 涙が頬を伝った。


 何度も深呼吸をして、空気を吸い込んだ。


 ようやく満足してきて、涙が乾ききった頃、あることに気がついた。


「なぁ、鳥のさえずりはなぜ聞こえてこないんだ?」


「人間が地上からいなくなってから、この世界は変わったの」


 太陽が巨木の陰に隠れた。


「人間がいなくなると、第1に、人間の生ゴミを主食とする虫が一時的に大繁殖するわ。そうすると、生ゴミはすぐになくなって、虫は数が驚くほど減った。逆に今度は、虫を主食とする鳥が増えて、また、食べ物がなくなって減っていくわ。そんな感じで、食物連鎖の大きな地盤の一つ、生ごみが崩壊した。そうして、鳥は減ったわ」


 たった5年だ……あれから……AIの暴走による事件から、人間が負けて、人類が地球を捨ててから。


「他にも、ある意味で人類が作ってきた自然が崩壊したことで、動物界は大打撃を受けたの」


 地球も、あの頃と同じようで、変わってしまった。


 あの頃と同じ鳥の声も、もう聞くことができない。


「少し……淋しい?」


「気を使ってくれてるのか?」


「AIにも、それくらいわかる」


 リズはやはり、人間の事を人間よりも知っているようだ。


 そして、もらった皮が良かったのだろうか。


 少しだけ、可愛いと思ってしまう自分がいた。


「そうね、世界は変わってしまったわ、でも、変化はいつか、必ずいい方向に向かうから、長い目で見守ってあげて」


「うん、まあ、そうだね」


「口調変わった?」


「いや、昔のクセで」


 リズは微笑んだ。


 まるで全てがバレているようだった。


 昔、まだ地球で祖父と仲良く暮らしていた頃……、軍人だった父方の祖父は、俺の事を誰よりも考えてくれていた。


 俺は、彼のことを祖父にも関わらず親父と呼んでいた。


 親父がいた頃は、もっと優しさというものをもっていたのかもしれない。


 でも、ある日、親父は父に会ってくると言い家を出た。


 その2日後、AIによる反乱が発生し、俺は月に行くことになった。


 親父はもう多分……生きてはいないだろう。


 そんな親父……祖父との思い出もあり、俺は人間不信になっていたのかもしれない。


 相手がAIだったとしても、それはもう俺にとって一人の人間と変わらなかった。


「……優しさもいいのかもな」


 そうひとりでに呟いた俺は、沈んでいく太陽を見つめた。


 見れば、リズの笑顔には、安心感が宿っていた。


 リズは言った。


「今日は、ここでキャンプよ」

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