動物型AI
あれから2日程、キャンプをして、いよいよ港区と呼ばれる場所にたどり着いた。
海が綺麗だ。
そして、天気はどんよりとした曇り空だった。
しかし、なぜか悪い気はしなかった。
ツアーは晴れの日しかやらなかったからだろうか。
曇りというものに、初めて出会った。
本当だったら、空から水が落ちてくるという、雨に出会いたかったものだ。
「ちょっと待っててクダサイ」
彼は体の周りにドロドロした何かをまとった、エイリアンのようなAIだ。
月で戦っていたAIの多くは彼らと同じ特徴を持っていた。
「この子はすごいの。体の周りの粘液を自由自在に操れるのよ」
リズがそう言うと、AIは、周りのドロドロしていたものを瞬時に固め、ヒレにした。
「そんな事ができるのか?」
「ええ、彼に、私たちが乗るものを持ってきてもらうわ。宇宙防具を着て。海の環境にも、耐えられるはずよ」
「潜水艦じゃないのか?」
「AIは、海の中でも問題ないから、潜水艦の中に入るだけ時間の無駄だわ」
「なるほど」
人類とAIでは、やはり差があるようだ。
さっきのAIが海から戻ってきた。
「連れてまいりまシタ」
そういった後ろから、大きなクジラが水面から顔を出したかと思うと体の八割を水面からだし、大きく仰け反って海の中に再び入っていった。
いや、クジラじゃない、クジラに似たAIだ。
そう頭で理解した瞬間、水しぶきが全身に降りかかった。
宇宙防具の外側は、びしょ濡れだ。
あまりの迫力に唖然としていると、クジラ型のAIはゆっくりと浅瀬にやってきて、砂浜に登ってきた。
「動物型AI、中でも、クジラに似せた個体ね。AIは、からだをけつごあできるのだけど、カインはできないわね。じゃあ……」
そこまでいうとリズはいきなり笑い出した。
「あなたの口がようやく役に立つじゃない!」
リズはクジラに指をさしてそう言うと、笑い始めた。
「本物と違ってプランクトンを食べないから、本物に似せて作った口の使い所がなかったのよ。大丈夫、飲み込んだりしないわ」
クジラはリズの言葉を理解したかのように、口を開けた。
いや、実際理解しているのだろう。
俺はその中に入った。
「食べるなよ」
そう言ったあと、クジラは静かに口を閉じた。
一瞬恐怖を感じたが、咀嚼するわけではなく、守ってくれているのだとすぐに理解した。
クジラが動き出した。
これから、海中都市に……俺の故郷に行くのだ。
どんな現実でも受け入れる覚悟はできている。
10分ほど経った頃、クジラが動くスピードを下げて、やがて止まった。
到着したのだろうか。
間もなくして、クジラは口を開けた。
「ありがとう」
そう言ってクジラから出ると、まず目に飛び込んだのは、激しい戦いの痕跡と、倒壊したビル、そして激しく損傷したアスファルトだった。
「酷いな」
「それだけあの戦いは悲惨だったのよ」
目の前にあるもの全てが、AIによる反乱が起きた5年前、そろそろ6年前になる出来事の残酷さを物語っている。
俺はそれをただ唖然として眺めていた。
すると、目の前に動いているものを見つけた。
人影だ。
俺はあの人を、知っている。
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