第6話

薄暗い地下の空気が、クラリッサの肌を撫でる。

 彼女は深い息をつき、地図に示された古びた扉の前に立った。


「ここが禁忌の地下区画」


 レオニスと共に進むその場所は、学園の真下に広がる秘密の空間。

 表向きには存在が隠され、関係者以外立ち入り禁止とされている。


 扉の鍵は、王都の闇に繋がる人物から密かに入手した。

 今、クラリッサはその鍵を使って、真実の扉を開けようとしていた。


 中に入ると、冷たい石造りの通路が続く。

 壁に埋め込まれた古代文字と不気味な魔法陣が、薄暗い照明に妖しく浮かび上がる。


「ここは……何の施設だったのかしら」


「調査記録によると、かつて王族の実験施設として使われていたようだ。禁忌魔法や人体実験が行われ、最終的に封印された場所だとか」


「王族の実験施設……?」


 クラリッサは冷たい視線を前に向けた。

 ここに隠された闇が、彼女の知る王族の物語を根底から揺るがすことになるとは、まだ知らずに。


 奥へ進むと、ひとりの少女が鎖につながれていた。

 青白い肌、無表情な瞳。彼女は明らかに人間離れした存在だった。


「……誰?」


 クラリッサが問いかけると、少女はかすかに口を開いた。


「私は……ミリア。ここに閉じ込められている者」


 ミリア……?

 あの、学園のヒロイン……?


「嘘でしょう……どうしてこんな場所に?」


「王族の秘密実験の被験者。感情を制御され、ただ演じるだけの存在。私の涙も、嘘」


 クラリッサは目を細めた。


「それで、あの微笑みも……全て計算されたものだったのね」


「でも……あなたは違う。私はあなたの強さが怖い」


「強さ、ね……」


 クラリッサは微笑み、少女の手をそっと握った。


「なら、ここから一緒に出ましょう」


 その時、遠くから足音が響いた。

 侵入者発見。

 その声が冷たく鳴り響く。


 クラリッサはレオニスに目配せし、彼もまた鋭く頷いた。


「時間がない。急ぎましょう」


 二人はミリアを連れて暗闇の通路を駆け抜ける。

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