第7話

夜の学園は、静寂に包まれていた。

 誰もが知らない闇の中で、クラリッサは慎重に歩を進める。

 だが、その心は乱れていた。

 地下区画で出会った少女ミリアの瞳に宿る冷たさが、彼女の胸をざわつかせていたのだ。


 「あなたが、私の知るミリアですか?」


 クラリッサは柔らかな声で問いかけた。

 薄暗い書斎の中、ミリアは椅子に座り、静かに微笑んでいた。


「はい。けれど私は、あの学園で皆が知るミリアではありません。私の涙は、演技です。感情は、与えられたもの。私の存在は、計画の一部に過ぎないのです」


 彼女の言葉は、氷のように冷たく、無機質だった。


 クラリッサは息を飲む。

 だが、揺らぐことはなかった。


「計画……あなたを使って、誰が何を狙っているの?」


「それは……まだわかりません。ただ、私が演じることで多くの者が動き、世界が変わるのを感じています」


 ミリアはしばし沈黙し、そして言った。


「クラリッサ様、私はあなたに忠告します。この先、あなたが追う真実は、想像以上に恐ろしい。あなたの味方と思っていた者が、実は最も危険な敵かもしれない」


 言葉の意味を考える間もなく、書斎の扉が激しくノックされた。


「クラリッサ様、至急お話があります!」


 レオニスの声だった。

 彼は真剣な面持ちで書斎に入ってくると、手に握った紙片を差し出した。


「これは……?」


 クラリッサが紙を広げると、そこには王都の最新情報が記されていた。


第二王子陛下が、密かに謀反を企てているという密告書だった。


「嘘だ……そんなはずは……」


 クラリッサの瞳が激しく揺れる。


「でも、これが本当なら……あなたと手を組んだはずの彼が、私の最大の敵になるの?」


 その夜、クラリッサは一人、深く考え込んだ。

 自分の全ての行動が、誰かの策略の中で踊らされている可能性。


「私は……誰を信じればいいの?」


 静かな部屋に、彼女の吐息だけが響いた。


 翌朝。


 学園の広場には、変わらず学生たちの笑顔が溢れていた。

 だが、クラリッサの瞳には、その全てが仮面に見えた。


 彼女は決意を新たにする。


「もう、嘘は許さない。敵も味方も、自分の手で見極める。それが、私の復讐の始まりなのだから!」




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