女しか抱けない私

つばきとよたろう

第1話 私は女しか抱けない

 私は女しか抱けない。

 どうやっても無理、生理的に受け付けない。

 抱けない。

「抱けなくてもいいじゃない」

 下着姿のアリスは、ベッドの上でメンソールの煙草を吹かしている。

 アリスというのは渾名だ。本当の名前は教えてくれない。

 アリスは煙を吐きながら、忙しく説得するように早口でしゃべった。イライラしているのではない。勘違いしてはいけない。しゃべるのが人よりちょっと早いだけなのだ。その分頭の回転が速い。私は寸胴で頭も鈍い。

「そんなに真剣に考えなくても、軽い気持ちで付き合えばいいじゃない。恋愛に前向きならそれでいいんだよ」

 私はアリスほど前向きになれない。

「例えば」

「例えば、何?」

「五日間限定で付き合ってみれば」

「五日」

 五日という時間が長いのか、短いのか私には分からない。ただ五日間息をするなと言われれば無理だし、長いと思う。五日間、作り置きしたシチューを食べろと言われれば、私は文句も言わず黙って平らげる自信がある。人に自慢できないお粗末な自慢だ。


 アプリで知り合った最初の男は言った。

「ぼくは世界が平和で、みんなが幸せならそれでいいんだよ。付き合っている付き合ってないなんて関係ないんだ。挨拶するみたいに、息するみたいに気軽にセックスすればいいだろ。それでみんな幸せなんだよ」

 軽過ぎる。


 アプリで知り合った次の男は言った。

「やはり命を懸けるような気持ちで、浮気は絶対にしないし、嘘も絶対駄目だと思うんです。二人の間に秘密があったらいけません。何でも正直に嘘偽りがなく、誠実に付き合いたいんです」

 重過ぎる。


 アプリで知り合った男は言った。

「世の中、ハッピーでなきゃ。何でも乗り。ノリノリ。オーケー、オーケー。夜もハッピーでいようよ。まあ、会うのは一週間に一度くらいだけど。それでも十分だよね。今日一日だけでもいいけどさ」

 チャラ過ぎる。


 アプリで知り合った男は言った。

「誰も俺たちのこと理解してくれないよね。分かるだろ。だから俺たちは手を取り合って助け合いながら、世間から冷たい目で見られながらもひそひそと隠れながら付き合っていくしかないんだ」

 慣れ慣れ過ぎる。


 アプリで知り合った男は言った。

「どこのホテル行く? 俺金欠だから割り勘ね。安い所でもいいだろ。ラブホだよ。ラブホ。すぐ行こう。ちゃちゃっと済ませちゃお」

 露骨過ぎる。


 やっぱり私は女しか抱けない。


 朝、私は顔を洗う。そして髭を剃る。

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