1章_校舎裏。五月と、勢いと、…何かが起こりそうな予感

1話:今日の卵焼きは、私の人生より味がある。


 5月。


 慣れ親しんだ仲間に別れを告げ、新たな出会いを噛み締める時期。

 私の入学した青春高校も例外ではなく、徐々に「仲良しグループ」ができつつあった。


 チャイムが4時限目の終わりを告げ、待ってましたと言わんばかりに生徒達が動きだす。

 各々が、自分の所属している「仲良しグループ」同士で机を合わせて食べるのが、このクラスの日常風景であった。



 そんな中、私はといえば……


 私は、誰とも机を合わせることなく、一人で弁当を食べていた。

 これも、このクラスの日常風景である。


 思えば、中学校の頃からこうであった。

 班決めはいつも余り物、体育はいつも先生と。

 おまけに趣味なし特技なし。

 もし私の人生を一文字で表すなら、きっと「無」になるだろうな。


 そんな事を考えながら、卵焼きを頬張る。

 おいしい。



 悩み事が二つある。


 一つ目は自分のこと。


 何の為に高校に来ているのか。

 未だに自分でもよくわかっていない。

 進学のため、将来のため。

 そんな薄っぺらい理由で自分を誤魔化して。

 目標も夢も何もなく、ただ周りに流されるまま。

 そんな私の人生に、果たして意味などあるのだろうか。


 私は、何の為に生きているのだろうか。

 そんなことが頭に浮かんでは消えていく。

 考えたくない。不安に殺されてしまいそうだ。



 二つ目は……


「入部届の締め切り来週までだぞ~」

 私の思考を遮って、先生の声が教室に響く。

 これがまさに、二つ目の悩みである。


「何度も言ってるが、部活動は必須だからな~」

 今どき部活強制って……何世紀前の話だろう。

 時代錯誤にも程がある。


 でも、どれだけ内心で突っ込んだところで、この学校のシステムが変わるわけでもない。

 公開処刑みたいな呼び出しを回避するには、何かしらに所属するしかない。

 帰宅部という選択肢がない以上、私はこの共同体の中で居場所を捻り出すしかないのだ。


 とはいえ、「部活に入りたい」わけでも、「青春を謳歌したい」わけでもない。

 どれもこれも、うるさくて、きらきらしてて、無理だった。


 昼休みの教室は、息苦しい。


 ふわりと、どこかから甘ったるい匂いがした。

 ピーチか、ベリーか、そんな系統のハンドクリームの香り。


 前の席の女子グループが、きゃっきゃと笑いながらチューブを回し合っている。

 その香りは、私が知らないブランドの服や、休日に出かけるきらびやかな街の匂いと、きっと同じ種類のものだ。

 私のいる空気とは、混じり合わない匂い。


 同じ空間にいながら、ここが自分の居場所じゃないということを、毎日毎日、確認させられているような気がする。


 それに疲れた私は、いつも通り弁当をかき込むと、誰にも気づかれないように、教室を抜け出した。

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