終末のSSR ―最強おじさんの戦闘アイドル育成プロジェクト―

白猫商工会

第01章

プロローグ

突然だが、この世界には魔法も魔法使いも実在する。


魔法とはなにか。


この世界とは別の次元――人間には知覚できないレイヤには“精霊”と呼ばれる超常の存在がいて、彼らの力を顕現することで魔法は発動する。

つまり、魔法使いとは精霊の力をこちら側の世界に通す「パス」を持つ人間といってもいい。


では、そのパスはどうやって生まれるのか。


日本の場合だが、召喚の儀と呼ばれるものを実行すると、一回につき戸籍登録されている国民一人を対象にパスが通り――魔法使いになれるチャンスが到来する。

対象者は精霊の意思によるところで、そこに人間側が介在する余地はない。


召喚の儀を実施するための資源は、「ダンジョン」と呼ばれるこの世界と高次元世界との間にある場所で獲得できる。


つまり――かみ砕いて言えば、“石を貯めてガチャを回す”。

各国はこの石を求め、国家単位で日夜競い合っているのだ。


ダンジョンに入れるのは魔法使いだけ。

そこにはガチャ石の他にも、人間世界には存在しない素材やエネルギー資源が偏在しており、人類は古来よりダンジョン攻略を通して発展を遂げてきた。

その広さも奥行きも、未だ誰ひとり知り得ていない。


さて、ガチャ一回につき、日本のどこかで魔法使いが生まれる。

なんとも夢とロマンに満ちた話ではないか。


ただし、魔法使いとひとくちに言っても、ランクがある。


N(ノーマル)

一般人とほぼ変わらないが、ダンジョンでの素材運搬やバックオフィス要員として活躍する。排出の大半を占める。


R(レア)

中級魔法に届く者もいるが、多くは初級止まり。中途半端な立ち位置ながら、ダンジョンの主戦力を担う。


SR(スーパー・レア)

常人離れした身体能力と上級魔法の使い手。希少で、大国にも数十人ほどしか存在しない。


SSR(スーパー・スペシャル・レア)

国家戦略級。世界に最大22人しか存在できない枠を持つ。天変地異すら呼ぶ専用スキルを授かる……とされる。



そしてここからが本題だ。


内閣官房には通称「ガチャ室」と呼ばれる部屋があり、そこで召喚の儀は執り行われている。

ガチャを回すには国会の承認が必要。


日本の年間予算枠は五十連。

昨年は奮発して八十連の承認がおりた。


当時の山田総理大臣は「いや~、SSR行っちゃうよ? 今朝トンカツ食ったからさ!!」と自信満々で臨んだが、結果は惨敗。

国民からは非難轟々、派閥争いに押し流され、椅子を追われた。


だが――たかだか八十連で一国のトップの首が飛ぶなど、あまりにもしみったれた話ではないか。


わが国は資源もなく、食料自給率も低い。さらに超高齢化社会を迎えようとしている。


日本に残された道は、もはや「魔法使いの力」に賭けるしかなかった。


そこで、新たに総理となった高柳氏は背水の陣で動いた。

根回しを尽くし、前代未聞の「千連ガチャ」を実現させたのである。


――そして、その結果はSSR三連ブッコ抜き。


それは国家開闢かいびゃく以来の奇跡であった。


当初、そのニュースは極秘裏に扱われた。

だが、ひとりの男の野望が、三人のSSRを“表舞台”へと押し出すことになる。


やがてそれは、日本のみならず世界を、混沌と熱狂の渦へと巻き込んでいくのだった。

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