第3章 過去世を知る者たち

アイドル・ツインスター

第21話 二人のアイドル

 明神夜斗と出会ってから、何度かデメアと戦った。トンビやオオカミ、動物をかたどった敵ばかりだったけれど、何とか全て退けた。時間帯も夜や放課後すぐの夕方、土曜の昼間等日による。

 そんな日々を送って、気付いたらツインスターがゲストのラジオ公開収録前日になっていた。


「いよいよ明日だぁ〜」

「楽しみだね、紗都希ちゃん」


 放課後、わたしたちは通学路にあるファミレスに寄っていた。ちょっとしたデザートと飲み物を頼んで、明日の打ち合わせをしている。

 ずずっとオレンジジュースを飲み干した紗都希ちゃんが、スマホをつつっと操作してツインスターのSNS画面を見せてくれた。そこには、明日の公開収録を楽しみにしている旨の投稿が表示されている。


「ほら、見てみて」

「『明日、皆さんに会えるのを楽しみにしています!』か。なんだかこっちが緊張しちゃうね」

「そうなの! でも、楽しむことに全力を傾けるんだ。だって楽しまないと損だし、わたしたち見ているお客さんが楽しまないと、MCもゲストも不安になっちゃう」


 お互い楽しく過ごせる時間になったら最高だよね。紗都希ちゃんはそう言って笑った。


「うん。そういうの、素敵だと思うよ」

「ありがと。『この人にファンでいてもらえてよかった』って思われるファンでいたいから。まあ、向こうがわたしを認知する可能性は限りなく低いけどね」


 照れ笑いをした紗都希ちゃんの手が、シェアしているポテトに伸びる。いつの間にか、自分のミニチョコパフェは食べ終えたみたいだ。

 もぐもぐしている紗都希ちゃんに、わたしはふと気になったことを聞いた。


「明日持ってくものって何かある?」

「んー……。チケットはあたしが持ってるから大丈夫。スマホとか財布とかハンカチとか? いつも出かける時に持ってるものでいいよ」

「わかった」


 頷いて、わたしもポテトに手を伸ばす。バニラアイス、食べ終わったから。


「明日楽しみ! 同行してくれてありがとね、美星」

「こちらこそ。明日は楽しもうね」


 そう言い合って、わたしは紗都希ちゃんからツインスターの話をたくさん聞いた。五年前にデビューした後、破竹の勢いでスターロードを駆け上がった二人は、十代二十代の女性ファンを中心に人気を博している。


「慧依さんと優依さんって双子なんだよね?」

「そうだよ! でもそっくりってわけじゃないから、二卵性なんじゃないかな?」


 そう言いながら、紗都希ちゃんがツインスターの公式サイトを見せてくれた。


「二人は現役大学生でもあるんだよ。慧依さんはライブではコンタクトだけど、普段は眼鏡をかけてるんだ。そんな見た目もあって、知的で落ち着いた大人っていうイメージが強いかも」

「確かに、物静かな印象だね」


 慧依さんの空色の瞳は吊り目で、少し冷たい印象を与える。だけど眼鏡をかけることで少しその印象が減って、冷静で大人っぽいイメージを感じさせる。


「優依さんは優依さんとは反対で、よく笑うムービーメーカーで明るい人なの。積極的にボケていくから、慧依さんがツッコんでるけど。だから、凄くバランスも良いんだよ」

「笑顔が印象的だね」


 優依さんは、薄桃色の瞳でわずかに垂れ目。柔らかい印象を与える顔立ちで、まさにムービーメーカーという言葉がよく似合っている。


 紗都希ちゃんの話を聞きながら、わたしはじっとスマホに映し出されている二人の写真を見つめていた。何となく何処かで見たことがある気がするのは、テレビでよく見るからなのかな。

 聡明でクールな印象の慧依さんと、明るくパワフルな印象の優依さん。どちらも魅力的で、人気がありそうだなというのが第一印象。

 そう言うと、紗都希ちゃんは「そうでしょ」と笑う。


「人気は綺麗に二分されてて、どっちも好きって人も多いよ。あたしも二人から選べないから箱推し」

「ふぅん……確かに、どっちもかっこいいもんね。少し方向性が違う感じもして」

「うんうん! 美星をこっちの沼に引きずり込める日も近いかも。あ、でも……」

「でも?」


 何かを思案する紗都希ちゃん。何だろうと思ったら、こっちに身を乗り出してきた。手招かれて、不思議に思いながら顔を近付ける。すると、紗都希ちゃんがわたしの耳に囁いた。


「美星は、日向くんがいるから沼らないか」

「――っ! さ、紗都希ちゃん……」

「ふふ、かっわいい」


 かあっと顔が熱くなり、胸の奥でドクドクと早鐘を打つ心臓を持て余す。紗都希ちゃんは、わたしが夢月のことをどう思っているのかを知っている。だから、こうやって時折からかうのだ。

 わたしは熱を冷まそうと、冷たい水を一口飲んだ。


「と、兎に角! イベントではよろしくね」

「こちらこそ。そろそろ帰ろうか」


 気付けば夕方に差し掛かっている。わたしたちはファミレスの前で別れ、それぞれ帰宅した。

 明日はいよいよ、ラジオの公開収録の日だ。

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