第20話 明神夜斗

 とんっと夢月がわたしの傍に着地する。その際に翼は幻のように消えた。


「そっちも倒したみたいだな、美星」

「夢月もね。……夢月は剣なんだ」

「ああ。月の剣、かな。ちょっと言うのは照れるけど」


 月の剣と称された夢月の剣は、つばの中央に月の形の水晶が嵌められている。刃の幅は細めで、すらりとしていた。


「さて、と」


 後はあいつか。夢月が呟き目を向けたのは、わたしたちより一段低い場所に立つ謎の少女。わたしたちの視線を受け、彼女は顔をしかめていた。


「目覚めたばかりの戦士が、こんなに戦えるなんて……」

「こっちも必死なんでな。……で、お前は何者だ?」


 夢月が淡々と尋ねる。声を荒げることの方が少ない彼だけれど、低く抑えられた声は圧があった。


「……っ」

「こんな住宅街でデメアを放ったのは、俺たちが出てくることを見越してだろうが……」

「……。ワタシは、地の王国の記憶を受け継ぐ者。王国の悲願を遂げるため、この地に降り立った」


 ポニーテールを揺らし、険しい顔つきのままで少女は言う。


「名は、明神夜斗みょうじんやと

「は……?」

「転生者……?」

「その顔、多くは知らないようだな。……妖精」

「――!」


 明神夜斗と名乗る少女に見つめられ、シャリオちゃんは息を呑んだ。知り合い、なのかな。

 シャリオちゃんはわたしの影から出て来て、自分の手を握り締めて前を向いた。


「わたしは、貴女を知らない。知らぬ者の問いに答える義理はありません」

「言うね。……まあ、良いか。追々自ら気付く時もあろうから」

「……」


 声を震わせながらも毅然とした態度のシャリオちゃんに、夜斗は息をつく。それからわたしたちの方を見た。


「これは、ほんの挨拶。ワタシたちは、星と月の王国の者たちを殲滅する。覚悟しておけ」

「殲滅なんてさせない。必ず、全て守ってみせる」

「ああ。大切なものを、必ずな」

「……ふん。やれるものならな」


 吐き捨てて、夜斗は煙のように姿を消した。デメアはどうなったかと見回すと、一匹も確認出来ない。


「……全部、倒せた?」

「みたいだな。一旦帰ろう。美星、バレたらやばいだろ?」

「窓から出て来ちゃったから、バレたら目茶苦茶怒られるね……でも説明しようもないし」


 肩を竦めるわたしに、夢月は「だよな」と苦笑をにじませた。


「うちはまだ帰って来てなかったから良いけど。……とりあえず、明神夜斗? のことはメッセージで話そう」

「わかった」

「お二人共、お疲れ様でした」


 シャリオちゃんの言葉を合図に、わたしたちはそれぞれの家に戻った。当然、わたしはもう一度変身して窓から入ることになったわけです。


 ✿✿✿


「……ふぅ」


 家に帰って、寝る支度までは全て済ませる。ベッドの上でクッションを抱き締めると、わたしはようやく息をついた。


「お疲れ様でした、美星様」

「ありがとう、シャリオちゃん。シャリオちゃんもお疲れ様」


 互いを労って、わたしは着信音を鳴らしたスマホを手に取る。メッセージの送り主は、送ると言っていた夢月だ。


『美星、落ち着いたか?』

『うん、大丈夫だよ』

『そっか』


 了解、と敬礼をする犬のスタンプが送られてくる。次いで、吹き出しがポコンッと現れた。


『さっきの明神夜斗のことだけど、シャリオは知っているのか? 彼女の前世、みたいなものを』

「……だって、シャリオちゃん。どう?」

「わたしは……知っています。ご本人かどうかは確認出来ていませんが、地の王国の姫君なのでしょう。あのお方であれば、面識がありますから」


 わたしは、シャリオちゃんの言葉をそのままスマホに打ち込む。通話すれば良いんだろうけれど、両親に気付かれるわけにはいかないから駄目だ。


(明日の学校か放課後に話せたらいいな。地の王国のお姫様で、デメアを操っていたということは……)


 今までわたしたちに襲い掛かって来たデメアを振り返る。豹、サル、ウサギ、コウモリ。共通点は思い付かないけれど、一つとても高い可能性のものがある。


「ねえシャリオちゃん。あの明神夜斗っていう子が、今まで襲って来たデメアを全部出したのかな?」

「その可能性は極めて高いです。ただ……」

「ただ?」

「……地の王国の姫君には、執事が一人おりました。その者も共に転生しているとなると、そちらもデメアを出現させているかも」

『つまり、俺たちが止めるべき敵は少なくとも二人いるってことか』


 夢月のメッセージが送られてきた。わたしが話しながらほぼ同じ内容を送っているから、一応向こうにも話は伝わっているはず。誤字脱字もあるんだけれど、そのあたりは夢月が何となく補完してくれているみたいだ。


『今後の対応……つっても、俺たちはデメアが襲って来た時にしか対処出来ない。戦い方も力の活かし方も、実戦でなけりゃ磨けないだろう』

『そうだね……。今出来るのは、デメアを確実に倒すことだけ』

『……姫と王子の生まれ変わり、さっさと見付けないと大変なことになるかもな』


 夢月のメッセージに、わたしは頷いた。


『あの地の王国の姫君も、二人を捜してるんだろうね、きっと。だって、月と星の王国の者を殲滅するって言ってたし』

『ああ。何か、二人を見分ける方法でもあれば良いんだがな』

「見分ける方法、か」


 わたしは試しに、シャリオちゃんに尋ねる。何か、二人だとわかる印のようなものはあるのか、と。


「あれば、見付ける手掛かりになったのですが……」

「決定的なものはないってことかぁ」


 どうしたら見付けられるだろう。その作戦も含め、今後夢月と相談することに決まった。


『じゃあ、また明日な』

『うん、おやすみなさい』


 わたしたちは会話を切り、明日以降へ持ち越した。

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