第22話 公開収録イベント

 ラジオの公開収録当日、三十分前にラジオのスタジオがある建物近くの公園で待ち合わせした。わたしが行くと、もう紗都希ちゃんはベンチに座って待っていた。


「ご、ごめんね、遅刻した!?」

「ううん、早いくらいだよ。あたしが早く来すぎちゃっただけ。楽しみすぎて」


 そう言って笑う紗都希ちゃんは、なんと待ち合わせ時間の三十分前には来ていたみたい。わたしも五分前には着くように来たけれど、流石は大ファン。

 ちょっと感心してしまったわたしに、紗都希ちゃんは「居ても立ってもいられなくて」と肩を竦めた。


「って、あたしのことは置いといて。多分もう列は出来てるだろうから、会場に行こうか」

「そうだね。近くの建物のホールだっけ?」

「そうそう。さ、こっちだよ」


 わたしが来る前に下見したという紗都希ちゃんは、迷うことなく道案内してくれる。ついて行くと、同じイベントに行くのであろう女の子たちがたくさん集まっていた。


「みんな、かわいい鞄持ってるね。紗都希ちゃんにこの前見せてもらった、痛バ? って言うんだっけ?」

「そうだよ。かく言うあたしも持ってきたんだけどね。ほら」


 そう言った紗都希ちゃんが肩にかけていた鞄を裏返すと、所謂ロゼットや缶バッジ、ポストカードで彩られた鞄が姿を現した。缶バッジやポストカードは、勿論ツインスターの二人のものだ。

 赤と青のフリルやリボン、かわいらしいクマやウサギの形をした装飾が使われていて、全体的にキラキラしている。


「わぁっ! かわいい!」

「非オタの子にかわいいって言ってもらえると嬉しいな! ありがとう!」


 上機嫌の紗都希ちゃんと一緒に、入場待機列に並ぶ。並んでいる子は女の子が多い。中には男の人もいて、もしかしたら隣の彼女さんに連れてこられたのかななんて考えた。


「入場開始しまーす!」


 並んでから十五分くらい経って、スタッフがマイクで叫ぶ。順番に入場して、それぞれの席へと座っていく。わたしたちも真ん中くらいの席に座った。


「前のステージに、セットが置いてあるね。あそこに座るのかな?」

「だと思う。あんまり前だと心臓止まるから、このあたりが丁度良いかも」


 ふふっと笑った紗都希ちゃんが、鞄からパンフレットを取り出す。入口で配られたそれには、公開収録の簡単なタイムスケジュールと注意事項などが書かれていた。

 わたしたちはそのパンフレットを読みながら、公開収録開始を待つことにする。


「あと五分くらい?」

「そうだね。……このラジオ番組自体も人気があるから、ツインスターのファンじゃない人もたくさんいると思う」

「わたしあんまりラジオ聞かないんだけど……それでも大丈夫かな?」

「もしかしたら、この公開収録を期に好きになるかもね。あたしもそうだから、凄く今日のを楽しみにしてたんだ」


 あまり大きな声でお喋りしていたら迷惑だから、わたしたちは声のトーンを下げていた。それでもホールの席が埋まってくれば、それぞれの会話で全体の声量は大きくなる。

 やがて、注意事項と共に始まりのアナウンスがあった。その後すぐに、ラジオのパーソナリティを務めるタレントの男性が現れる。


「皆さん、こんにちは! 今日はラジオ公開収録にお越し下さり、ありがとうございます。パーソナリティの左近ともひさです」


 左近ともひささんは挨拶もそこそこに、ちらりとステージの袖を見た。そして、わたしたちを見回して「お待ちかねだと思うので」と切り出す。


「本日のゲストにご登場願いましょう。今をときめくアイドル・ツインスターのお二人です!」

「どぅも! こんにちは!」

「こんにちは。左近さん、お邪魔します」


 左近さんに招かれ現れたのは、慧依さんと優依さんのアイドルユニット・ツインスターだ。

 テンション高めの優依さんと、落ち着いた雰囲気の慧依さん。二人はひとしきり客席からの声援に応えた後、左近さんの隣に並んだ。


「はい、元気にファンサしてくれてありがとうございます! 公開収録ということで、いつもは一人しか迎えないゲストを二人お迎えしました。お二人、自己紹介をお願いします」

「はーい! まずはオレから」


 先に手を挙げたのは優依さんだ。


「ツインスターの片割れ、優依です。今日はみんなで楽しい時間を作っていきましょう。よろしくお願いします!」

「同じく、ツインスターの慧依です。たくさん集まって下さりありがとうございます。ラジオの向こうで聞いて下さっているあなたも、きっと楽しい時間になりますように」


 優依さんと慧依さんが挨拶をすると、それぞれに大きな拍手が贈られる。さっきちらりと大きめのネームボードを持っている人がいた。ぬいぐるみを持っている人もいて、改めてツインスターの人気を目の当たりにした気がする。

 そうこうしているうちに公開収録が始まり、一つずつコーナーが進んでいく。パーソナリティとゲストの二人は、時折客席に話を投げかけながら、終始穏やかで楽しい雰囲気を作り出していた。


「では次のコーナーへ参りましょう。次は、ゲストへの質問コーナーです」


 公開収録前、参加者のスマホにアンケートが送られていた。そこにゲストへの質問を書く欄があり、収録の際に紹介するという旨のことが書かれていたのだ。


「じゃあ、まず一つ目の質問で……慧依さん、どうされましたか?」


 左近さんが尋ねた時、慧依さんは何かをじっと見つめていた。視線の先はホールの数少ない窓―天井近くの小窓―に注がれている。

 けれど、左近さんに問いかけられて、慧依さんはハッと我に返ったような反応をしてから肩を竦める。「すみません」と苦く笑った。


「窓の外に、鳥が飛んでいたようだったので。何の鳥だろうと見てしまいました」

「失礼なことを聞きますが、眼鏡をかけておられますが見えるものなんですか?」

「ふふ、見えますよ。かなり度を強めに作ってもらっているので。でも飛んでいる相手を特定するのは難しかったですね」

「慧依は子どもの頃、滅茶苦茶洞察力に優れてたんですよ。だから少しくらい動きの速いものなら、見分けられるんです」

「何で優依が自慢げなんだよ」


 ドッと笑いが起こる会場。わたしはこの時、慧依さんの見ていた鳥の正体について、特に何も考えていなかった。

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