第2話
「……話は平行線ね」
エンジニアE968が、冷めた声で肩をすくめた。
「屋根を直さなきゃ夜に凍死だ。俺はベンの意見に賛成だぜ」
傭兵ああああが口角を上げる。
「しかし、食料がなければ長くは持たぬ!」
騎士ケーゴは声を荒げるが、譲らない。
事の発端は半壊した建物を直して、仮拠点にしたいと言うベンと七日分しか無い食料に心配になったケーゴが口論をしている所に周りが口を出した事である。
…話を戻す。
緊張が張りつめたその時――作家GMが静かにペンを走らせながら口を開いた。
「……どちらも正しい。ならば分かれればいい。拠点を三人で修復し、残り四人で調査を行う」
全員の視線が彼女に向く。
「互いに成果を持ち寄れば、初日の大切な時間を無駄にせず済むでしょう。記録者としては、その方が効率的だわ」
「……まあ、しゃあねえな」
ビックベンが腕を組み、唸る。
「俺とああああ、それにE968で建物をやる。工具もあるし、手も足りる」
「では、残る我らで調査だ」
ケーゴが頷き、漁師と神官、そしてGMを見回した。
「危険は承知の上でな」
こうして、探査団は二組に分かれることになった。
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拠点組(ああああ・E968・ビックベン)
建物の中は雪が吹き込み、床板の半分が朽ちていた。
ビックベンは斧で柱の強度を確かめ、低く唸る。
「思ったより持つな……柱はまだ生きてる。雪を払って梁を組み直せば、なんとかなる」
「やるしかねえな」
ああああは手袋を外し、素手で雪を掻き出し始めた。冷気が皮膚を刺すように痛む。
「なあ、E968。お前、鉄の扱いもできるんだろ?」
「できるけど……資材が限られてる。釘一本でも無駄にはできない」
E968は無表情のまま、工具箱から錆びた金具を拾い上げた。
「……それにしても」
彼女はふと壁の一角に目を留めた。
そこには、黒い焼け跡のような痕が残っていた。
炎に焼かれたものとは違う、煤とも違う――まるで何かが“溶けた”ような奇妙な跡。
「……これは、何の痕跡?」
答える者はいなかった。
ただ、北風だけが建物を鳴らしていた。
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探索組(ケーゴ・漁師・神官・GM)
一方その頃、探索組は建物から離れ、雪原へと足を進めていた。
「足跡が、ない……」
ベージュスが不安げに呟いた。
確かに、その通りだった。
これまで幾度も調査団が訪れたはずの地。
だが雪原には、彼らが歩んだ痕跡が一つも残っていない。
動物の気配すらない。
「魚の影もないですね……普通なら氷の下に群れがあるもんですが」
漁師やまかや〜が低く唸る。
温厚な顔のまま、だが声には確かな不安が滲んでいた。
「記録しておくわ」
GMがノートにさらさらと書きつける。
「“痕跡の欠如”。生き物も、過去の人間も、すべて痕が消されている……」
ケーゴは剣を握り締め、白一色の地平を睨んだ。
「やはり……この地そのものが、敵なのかもしれぬ」
その言葉に、誰も反論はしなかった。
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