第1話
雪と氷が砕ける音を立て、輸送船の小舟が岸へと漕ぎつけた。
七人は、凍りついた風に顔をしかめながら《北海月鐘》の大地へと降り立った。
一歩踏みしめるごとに、靴底が凍りつく。
視界には果てのない白。空も海も大地も区別がつかず、ただ鈍色の光に覆われている。
「……壊滅したはずの連中の亡骸が見当たらんな」
騎士ケーゴが剣の柄に手を置きながら、周囲を睨む。
本来なら、ここには数度の調査団が入っているはずだった。
だが残されているはずの遺体も血痕も、道具や武器の痕跡すらも、まるで最初から存在しなかったかのように消え失せていた。
「あれを見ろ」
傭兵ああああが顎をしゃくった。
雪の向こうに、半壊した建物がぽつんと残っていた。
壁の一部は崩れ、屋根も抜け落ちている。だが奇妙なことに――修復可能に見える部分が多かった。
まるで誰かが「次の来訪者のために」残したかのように。
「……一応、使えそうね」
エンジニアE968が建物に近づき、鉄材の歪みを確かめる。
「資材さえあれば、雪を防ぐくらいには直せる」
「資材はあるが……食料は七日分しかねえ」
大工ビックベンが背負った荷を下ろし、唸る。
「七人で七日分だぞ。狩るか、釣るか……」
「魚はいるかもしれません。ですが……この海は普通ではない」
漁師――やまかやは、なやかやたまたゎなわなやてにはてて)ゆてやねー――が静かに海を見つめた。
温厚な口ぶりだが、その声には確かな警戒が混じっていた。
「……何もかも、不気味です」
神官ベージュスが、胸に手を当てて祈るように呟く。
「死の痕跡すら残さない大地……ですが、神の御業ならば理解できます」
「記録しておくわ」
作家GMが手帳にさらさらと文字を書きつける。
「痕跡の欠如、建物の残存、食料の不足。……これで三つの“初期不安要素”ね」
七人の間に、重苦しい沈黙が落ちた。
吹雪がその沈黙を包み、鐘のような音を鳴らす。
こうして、最初の一日が始まった――。
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