第3話 不老不死の光を浴びた来訪者たち

 神さま見習いのセリエは、地球の守護神女神アセリアを訪れていた。

セリエにとってアセリアは絶対神である。


「セリエは、どうしたいのじゃ」

「アセリアさま、気の毒な魂が過去から現世に紛れ込んでいます」


「人間たちの肉体は仮の姿よ。何の意味がある」

「はい、精神の混濁を心配してございます」


「しかし、この時期に起こることの方が不思議じゃ」

「はい、地球は第三の時代になってますが、前の時代から・・・・・・ 」


「セリエよ、時の女神エルミオの神使ルニャに相談も良かろう」

「アセリアさま、ありがとうございます。では、早速」


 セリエはアセリアに挨拶して虹色の光を残して消えた。


「セリエも、まだまだじゃな」

 アセリアはセリエが残した光に触れ言った。



   ⬜︎⬜︎⬜︎



「セリエさま、ご無沙汰しております」

「ルニャさま、早速でございますがーー 女神エルミオさまに面会をお願いします」


「セリエさまーー エルミオさまは既に、セリエ様をお待ちしております」


 セリエは周囲を見回して息を呑んだ。

 女神エルミオが空間に同化していた。


「エルミオさま、気が付かず失礼しました」

「セリエ殿、お気遣いは無用でございます」


「それで・・・・・・ 」

 セリエは言い掛けて言葉を切った。


 女神エルミオは、アカシックレコードの中にある万華鏡を見ている。


「セリエ殿、ここには幾つもの万華鏡が見えています」

「・・・・・・ 」


「そこに見えるフィルムの一つひとつが魂の記録でございます」


女神エルミオがゆっくりとセリエに語り掛けた。


「たとえば、この者の前世と来世のすべては繋がってーー 人間は幾つもの魂の万華鏡を持っています」

「エルミオさま、過去から現世に時を飛び超えた魂はどうなるでしょうか」


「セリエ殿、昔からよくあることです」

「・・・・・・ 」


「消えた側では、神隠しと騒ぎ立てますが実体に変化などございません」

「では、悪いことじゃないのですね」


「ただ、邪鬼を引き連れていないかご注意下さい」

「邪気ですか。エルミオさま」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



「ルニャ、セリエ殿に“時の勾玉まがたま”をお渡しして上げてください」

エルミオに言われた神使ルニャはセリエの前に勾玉を持って現れた。


 セリエは、神使ルニャから透明な水晶の勾玉を頂き、女神エルミオに感謝の礼を三度して顔を上げた。


「セリエ殿、その勾玉は邪鬼を吸い上げ続けーー 無限に吸い上げます」

「エルミオさま、この勾玉の扱いですが、どなたが持てば相応しいでしょうか」


「お守りと変わらぬから必要な数を現世うつしよに送り届けましょう」

「エルミオさま、ありがとうございます」


 神さま見習いのセリエは女神エルミオと神使ルニャに礼を伝え、光を残して消えた。



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 徳田康代大統領は、昼間夕子、昼間朝子、夢乃真夏、星乃紫、朝霧美夏、五人の訪問者と一緒だった。

神聖女学園の二階の食堂で昼食を取ることを決め、補佐官の明里光夏あかりみかに伝えた。


 陰陽師の安甲晴美、副首相の豊下秀美、生徒会役員の門田菫恋かどたすみれも同席した。


 遅れて神さま見習いのセリエ、神使セリウスと天女天宮静女が顔を出す。

食堂中央の大きな円卓テーブルに腰掛けて明里がオーダーをまとめていた。


「夕子さんは、安甲あきの神社の昔の神主をご存知なんですね」

「ご存知も何もよく一緒にいましたから」


「どんな感じですか? 」

「凄く親切で、気の利く神主さんでーー 私の中では過去じゃないので」


「夕子さん、失礼しました」

安甲は無神経な自身の発言を反省した。


『夕子さん、神聖女学園は男性立ち入り禁止ーー なので神主さんがいないことが幸いしています』

「徳田さんーー あの時に何が起こっていたかは分からないの」


「・・・・・・ 」

「だから何人が、こちらの世界に飛ばされたかもーー 」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 神様見習いのセリエが急に立ち上がった。

五人の来訪者の前に女神エルミオが届けた勾玉の水晶を見せた。


「みなさんにゃあーー これがにゃあ、役立つにゃあ」


 セリエは人間たちの前では、黒猫時代のにゃあにゃあ言葉になる。


 セリエは、肌身離さず身に着けるように女神の言葉を説明した。

 勾玉のネックレスは透明なファイバーに見えたが実は違った。

切ることも千切ちぎることも出来ない神さまの特殊素材で出来ている。


「何か困った時はにゃあ。心でにゃあ、セリエの名前を呼びにゃあ」


 五人の女性はセリエに深々とお辞儀をして感謝を伝え微笑んだ。



   ⬜︎⬜︎⬜︎



『安甲先生、夕子先生も、朝子先生も古典が専門ですが』

「徳田さん、じゃあ、あとで部室に寄ってもらいましょう」


『そうですね。大所帯ですから』


 昼間夕子と朝子は、徳田と安甲の会話の意味が分からず首を傾げていた。


「じゃあ、門田さん、夕子さんたちを部室に案内して上げてください」

「分かりました。安甲先生」


 五人は、セリエから渡された時の女神エルミオの勾玉を首にぶら下げた。

門田の案内でかるた部がある部室に移動したがーー。


「夕子先生、昔と全然違う感じです」

「そうね、真夏ちゃん、あれから百年以上も未来ですから」


 星乃紫、朝霧美夏も横で頷きながら周囲を見回した。


「この建物すら記憶に無いわ」

紫の言葉に美夏が紫の肩にそっと手を置く。


「でも、私たち命の砂時計は終わってないわね」


天宮静女あまみやしずめが美夏の言葉を聞いて言う。


「多分、黄金の光でござるな」

「静女さん、それってーー 」


「美夏さん、あの光の別の名前は、不老不死の光でーー 若返りの光でござる」

「静女さん、じゃあ、私たち神さまになっちゃったの」

 ピンク色のワンピース姿の夢乃真夏が静女に尋ねた。


「真夏ちゃん、神さまじゃないでござる。弾き出されたでござる」

「それじゃ、つまはじきですか」


「真夏ちゃん、“.つまはじき”は、古典の日記の中にある言葉よ」

「夕子先生、それは、何」


「真夏ちゃん、今度一緒に朗読しましょう」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 真夏は部室の昇段ボードを見て呟く。


「安甲先生、かるた会って何ですか」

「神聖女学園かるた会なら生徒で無くても入れるわよ」


 部室の外では、つむじ風が埃を舞い上げていた。

見知らぬ訪問者が部室の扉をノックした。


「誰かしら」


 安甲晴美あきのはるみは、扉開けて見たが誰もいない。

安甲は風の悪戯かと思い夢乃真夏の勾玉を見て驚き息を呑んだ。

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