第2話 天女の静女が見守るでござるよ!真夏ちゃん!

「徳田理事長、質問ーー よろしいですか」

「なんでしょうか? 」


「いいえ、些細なことなんです」

「どうぞーー 」


 昼間は横にいる娘の朝子を見ながら、理事長に向かい緊張していた。


「そのーー 理事長は、ここ神聖女学園の理事長ですね」

「ええーー 」


「私がいた時代の学園理事長もーー 徳田理事長と名乗っていました」

「そうですか。多分、先代の前の前のご先祖かと思います」


「容姿も似ていて、もしやと思いました」

「でも、その方、どんな方でした」


「物腰が柔らかく親切で素敵な女性でした」


 徳田理事長は、昼間の言葉に目頭が熱くなりハンカチで目元を抑えた。


「私は、亡き祖母から先代のお話を子どもの頃に聞かされました。昼間会長のお話もね」


 夕子は、まさかの理事長の言葉に眩暈を感じ、思わず朝子の手を強く握っていた。

夕子には、大昔が昨日のことのような出来事だったのです。



   ⬜︎⬜︎⬜︎


 

 徳田神聖学園理事長は秘書を連れ、夕子と朝子を生徒会室に案内することに決めた。

徳田大統領の母である理事長には、数名の女子高生警備が随伴している。


 理事長を先頭に神聖女学園の長い廊下を歩く。

北側の廊下から学園のグランドは見えない。


 白い柱と柱の間には大きな窓が並んでいる。

その窓から神聖神社の赤い鳥居と屋根が見えていた。


「昼間先生、神社も昔と同じですか? 」

「いいえ、ちょっと大きくなっているみたいに感じます」


「そうですか」

「それに、以前はショッピングセンターもモノレールもございませんでした」


 昼間夕子、朝子、理事長と秘書は廊下の端で立ち止まった。

秘書が生徒会室のインターホーンを鳴らす。


 受付の女子生徒が用件を確認して入り口のロックを開錠した。


「徳田理事長、わざわざありがとうございます」

「いいのよ」


 生徒会役員の門田菫恋かどたすみれは用件を大統領補佐官の明里光夏あかりみかに伝え急いだ。


「理事長、明里でございます。ご無沙汰しております」

「明里さん、徳田大統領はーー 」


「こちらでございます」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 門田が大統領執務室の観音扉の扉をノックした。

重い油圧扉が音もなくゆっくり開く。


 門田はやや明るい声で康代に告げた。 


「大統領、お客様ですーー 」


 門田や明里、豊下は、公用と私用で、康代への呼び方を使い分けている。

 門田の背後に母の理事長の姿があった。


 康代は、咄嗟に神聖女学園理事長に声を掛けていた。


『理事長、お呼び頂ければ、私から参りましたのに』


「康代さんは、我が国の女子高生大統領よーー 私が来るのが筋ね」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 門田と明里が、理事長と新任教師を連れて奥の応接室のソファに案内する。


「康代さん、この部屋、狭いわね」

『ここは、あまり人が来ませんので』


「まあ、いいわ。ここは私の神聖女学園ですから、私が増改築させます」


 康代は、理事長の性格を知っていたので反論を控えた。


 執務室は、徳田幕府の建築技術者によって幾度も改修されている。


「それでね、康代さんはもう面識があると思うけどーー 他にもあるの」

『理事長、なんでしょうか』



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 徳田理事長は、昼間夕子を見て目配せする。


「昨日は、ありがとうございました。大統領」


夕子は言葉を切りながら続けた。


「実は私たちが今回、この時代にやって来たのはーー 」

『昼間先生、なんでしょうか』


「朝子と私だけじゃありません。あの光を浴びた者たち全員です」

『・・・・・・ 』


「それがーー はぐれてしまいました」


 康代は側近の天宮静女を見て言った。


『静女、協力してくださる』

「康代殿、静女で良いのでござるか」


『静女さまなら、問題ないわね』

「静女さまでござるか」


 静女は、応接室の窓からグランドを見て言った。

「見かけない者がグランドにおるでござる」


 昼間夕子はーー もしやと思って窓際に駆け寄り外を見た。


「紫! 美夏! こっち見て 」


 グランドにいた二人が夕子の声と姿に気付いた。


「夕子!」


 二人は夕子の名前を大声で叫んだ。


 紫と美夏の声に気付いた夢乃真夏が二人の背後に突然現れた。

霧が晴れたように現れたのだ。


「三人でござるなーー 」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 昼間夕子、昼間朝子は、星乃紫、朝霧美夏、夢乃真夏は未来の神聖女学園で再会した。

 

 徳田理事長は急用を思い出して秘書と一緒に退室した。

理事長が去ったあと、康代、光夏、菫恋の三人は訪問者を連れ、神聖女学園の一階食堂に案内した。


「わあ、昔と全然違う」


「真夏ちゃん、私たちは未来にいるのよ」

「そうね、未来だもんね」

 

「徳田大統領、この度は色々とお世話になりました」

『昼間先生、まだお世話はしていませんからーー 」


「・・・・・・ 」

『ところで、先生たち、滞在先はどうされますか』


「えええ、まだ分かりません」


 夕子は自分の言葉に不安を感じた。

東富士見町のマンションや保養所の存在が分からない。


 徳田大統領に縋るしかなかった。


『明里さん、女子寮の空き、どうかしら』

「徳田さん、この間の第六号棟女子寮の完成で余裕があります」


『じゃあ、豊下さんと二人で、みなさんを案内して上げてください』

「分かりました」


『ーー あと政府発行の無決済カードを渡して説明して上げてください』

「至急手配します」


 明里は、豊下のホログラム携帯を呼び出し大統領の指示を伝えた。


『じゃあーー 明里さん、食事と手続きが終えたら、ショッピングセンターのカフェ来てください 』

「カフェですか」


『そして今晩の宿泊予約もお願いします』

「学園都市の宿泊施設ですね」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 康代は、明里に指示を与えたあと、静女に言った。


『静女、今日はね。あれはダメよ』


 康代は言った瞬間、後悔した。

天女に指図できる立場じゃないと・・・・・・。


 明里を除いて康代たちはショッピングセンターのカフェ前に瞬間移動した。


 昼間夕子、昼間朝子、夢乃真夏、星乃紫、朝霧美夏の五人は、タイムスリップ経験者で驚いていない。


「静女さんの魔法ね」

「真夏ちゃんでござるか」


「そうよ。真夏よ。よろしくね」

「静女でござる。よろしくでござる」


『それで、先生たちは、困っていませんかーー 例えば、過去に戻りたいとか』

「確かにあるけど、それって夢と変わらないのよ。起きている私が私なの。だから変わらないのね」


『確かに、人の意識って今この瞬間ですね』



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 いつの間にか、神さま見習いのセリエと神使セリウスが現れた。


「康代にゃあ、時間出来たにゃあ」

『まあ、セリエさま』


 康代はセリエに改めて五人を紹介した。


「康代にゃあ、まだまだ増えるにゃあ」

『セリエさま、意味が分かりませんが』


「セリウス、説明してあげにゃあ」

「康代さま、時空間が歪んでいますーー それでタイムスリップが起きています」


『大丈夫ですか』

「この世界は、アメリアさまの勾玉まがたまの影響で守られています」


『じゃあ 大丈夫ね』


 セリエがセリウスに代わり言った。


「過去は守られていないにゃあ」

『・・・・・・ 』


「勾玉の影響は、この世界だけにゃあーー 」


 明里と豊下が遅れてやって来てセリエにお辞儀をして着席した。

静女は相変わらず外を眺めている。



   ⬜︎⬜︎⬜︎



「康代さん、宿泊施設五人分予約しました。女子寮は、秀美が明日対応します」


明里は夕子たちを見て言った。

「ーー とりあえず、臨時決済カードをお渡しします」


 明里は、そう言って、五人にカードを渡し説明を続ける。


「このカードはポイント制です。この時代には通貨がございません」

「明里さん、じゃどうやって生活するの」

夕子は疑問を口にした。


 明里は、自分のカードを見せて言った。


「ポイントは、毎月、政府から支給されます。

ーー 一日ごとに使用限度額がございます。

ーー 不正使用した場合、厳しいペナルティがございます。

ーー 主に食品日用雑貨、衣類に使用出来ます」


「明里さん、じゃ、住居はどうするの」

「それは、徳田幕府の管理部門が全国のインフラを管理しています」


「じゃ、何も心配ないのね」

「はい、まだまだ途上ですが無駄のない社会になっています」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



「明里さん、私もできることあれば協力するわね」


 昼間夕子は、そう言って真夏の手を包み込み言った。


「真冬ちゃんと会えるといいわね、真夏ちゃん」

「真夏ちゃんには、拙者がおるから大丈夫でござる」


 真夏は、天宮静女を全身で抱きしめて言った。


「天女の静女さま、ありがとうございます」


 真夏の頬を静女の優しさが濡らした。

静女は、真夏の頭を優しく撫でて微笑みながら言った。


「天女の静女が見守るでござるよーー 」

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