第27話 伏兵には伏兵を

 ゴブリンたちに釣られ、挟み撃ちを受けた。大柄な鬼のような魔物が前後から僕たちに迫る。だが、そんな伏兵は僕たちが打ち砕いてやる! 伏兵には伏兵を、だ!


「頼むよ! 皆!」


 僕の声に応えるようにマジックバッグから次々に小さな兵隊たちが現れる。前進が緑色の、オモチャの兵隊。とても小さな彼らだが、なめちゃいけない。彼らは強力な兵士たちだ。


「ヘリも、戦車も出してやる! 小さいからって、なめるなよ」


 マジックバッグから現れるのは兵隊だけではない。小さなヘリや戦車も飛び出し、配置完了! 彼らが、僕の奥の手。精鋭部隊グリーンベレーだ! 今は、彼らが便りだよ!


 僕も僕で、やるべきことをやる。スマホを手に取り、カメラを魔物に向けた。さあ、女神様。あなたも頼りにしてますよ。


「ミネルヴァ! アナライズお願いします!」

「――任せなさい。やつらは、ホブゴブリンよ。ゴブリンより大柄で筋肉質。パワーはあるけどゴブリンよりも、ちょっと遅い。スピードで撹乱しなさい」


 スピードね。そういうことなら! 僕がミカン君に視線を向けると、彼は力強く頷いた。そして彼は武器を掲げ、叫ぶ。


「後方からの伏兵は、僕たち予備戦力で引き受けた! 前衛は、前方の敵に集中してほしい!」


 ミカン君が力強くそう言っても、味方はまだ困惑しているようだ。ここは、派手なパフォーマンスが必要かもしれない。そういうことなら、うってつけの味方が居るぞ!


「戦車隊! 目標はホブゴブリンの頭! 撃てー!」


 配置された戦車たちの砲撃! 複数の鬼の頭部で派手な爆発が起きた。鬼たちはたたらを踏み、大きなダメージを与えられているのが分かる。が、所詮はオモチャサイズの砲撃。鬼の頭部を破壊するには至らなかった。とはいえ、これで良い。これで充分だ。


 さらにだめ押し! 兵隊たちに指示を出して、鬼たちへの、一斉射撃が始まる。これらの攻撃によるダメージを鬼たちは無視できない。結果、後方からの襲撃を一時的にでも止められている。良いぞ! グリーンベレーはしっかり活躍している!


「後方の戦力を、僕の人形たちでサポートする! 大丈夫! 力を合わせれば、なんとかなります!」


 僕の叫びよ! 味方に届け! その思いが伝わったのか、味方の困惑が収まっていくのが空気で理解できた。だから、僕は味方へエールを送る!


「やつらは、ホブゴブリンです! パワーはあっても、スピードはない! 決して勝てない敵じゃない!」

「「「……う、うおおおおー!」」」


 僕の鼓舞を受けて、味方が動き出す。予備戦力の二十名弱が、ホブゴブリンとの戦闘を開始した。良いぞ! きっとこの状況を巻き返せる! 僕も味方をサポートするぞ!


「グリーンベレーは味方のサポート! 徹底的に、魔物を翻弄してやれ!」


 オモチャの兵隊たちがホブゴブリンを翻弄して、牽制する。その隙をつくように、冒険者たちが強力な一撃を与えていく。ミカン君も頑張ってるし、僕も頑張らないと!


「――ハザマ君! 君が貸してくれた【ムラマサ】は切れ味抜群だね! 敵が面白いように斬れちゃうね!」

「そりゃどうも。僕だって、格好良いところを見せちゃうぜ!」


 マジックバッグから、ポーションを取り出す。僕だって戦えるんだ! それをしっかり見せてやる。


「命名【火炎瓶】!」


 名付け親のスキルによってポーションを火炎瓶に変化させた。それをできるだけ遠くのホブゴブリンに投げつける。巨躯の魔物だからこそ、攻撃は当てやすい。僕だって、やってやるぞ。


 後方の冒険者たちの戦闘は、有利に進んでいる。魔物の策は、崩れかかっている。このままいけば、なんとかなりそうだ。そう、思っていたのだが。


「「「うわああああー!?」」」


 前方から、何人もの悲鳴が聞こえてきた。僕たちが後方で頑張っている間に、前衛が崩されかかって居るのか? どうして? 戦力はあちらの方が充実しているはず。


 何が起きているのかを確かめるため、僕は前衛の方へ振り向いた。そうして、奇妙なものを見た。


 緑色の巨大な粘体。それはジャイアントスライムに似ているけど、違う。なぜなら、その粘体の表面から鬼や小鬼が生まれている。次々に。なんだよ……あの化物は。


「――ハザマ! アナライズ!」

「あ、はい……!」


 女神様に言われてハッとする。僕はスマホを謎の魔物へ向けた。何か、分かれば良いが……!


「……アナライズ完了! おおむね予想通りだったわね。やつはウボ=サスラ。いえ、鬼や小鬼しか生み出さないということはウボ=サスラの亜種かしら。ろくでもないのが出てきたわ」

「そんなやつがどうしてここに……?」

「考えられるのは、アースビーストが開けた穴を通って、下層から出てきたってところかしらね。憶測になっちゃうけど」

「そう……ですか」


 前衛や中衛の冒険者たちが、ウボ=サスラと戦っている。彼らの武器や魔法による攻撃がウボ=サスラには効いていない。なんだあいつ……無敵か? これ、かなりやばいんじゃないか?


「ウボ=サスラには魔力A以上の攻撃しか通用しないの。それはどうやら、亜種にしても同じこと……の、ようね」

「魔力A以上の攻撃……そんなもの……ある」


 僕は、それを持っている。今こそが、真の切り札の使いどころ……だろう!

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