第26話 迫るゴブリンの群れ

 ダンジョンの第一層へ進入。その時に、念じればダンジョンの第二層へも行けることが感覚で分かった。きっと、ミカン君も一緒だろう。冒険で手に入れた勲章みたいで誇らしい気持ちになる。


 次の瞬間には、僕たちは【a-24】の入り口広場に立っていた。そうして、すぐに気付く。この広場にまでゴブリンが居る。今はダンジョン内のどこででもゴブリンと遭遇するようだ。僕たち数十人で足りるだろうか? いや、百人規模で冒険者が固まってると移動もままならないのは分かるけどさ。何事も一長一短だね。


「全員、戦闘態勢!」


 僕たちのリーダーポジションである大男が叫ぶ。彼、老神さんの仲間と一緒に居たな。ということは、このゴブリン退治は老神重工の主動と考えても良いかもしれない。そのせいか、僕もミカン君も、最後尾で待機になっている。やんなるね。


 首尾良く陣形が組まれ、前衛の冒険者たちがゴブリンから他の冒険者たちを守る。中衛の魔法使いが攻撃の要となり、後方には回復役と予備戦力が控えている。その配置に無駄はないようにも思えるが、どうなることやら。分からない。とにかく、やってみるしかないのだ。


 陣形を組んだ冒険者たちにゴブリンが迫る。奥から次々にゴブリンが現れ、その数はあっという間に数えきれないほどのものになる。もしかしたら数百の小鬼が襲いかかってきたのかもしれない。緊張はするけど、やるっきゃない。僕たちの実力を信じるんだ。


 すぐにも、小鬼の集団との戦闘が始まった。最も前の冒険者たちが攻撃を防ぎ、その後ろから、魔法使いたちがゴブリンを攻撃する。作戦通り。戦闘は順調におこなわれているな。ひとまず安心だ。


 多くの魔法使いは初級魔法であるファイアボールで攻撃している。ゴブリン相手ならその魔法で充分に殺せるし、初級魔法は燃費も良い。それにしても、初級魔法も、同時に何人もが発動すると、なかなかの迫力だ。今は攻撃に巻き込まれないように、後方で大人しくしていよう。


「……僕たちの出番がないなら、それはそれで良いんだけどね」

「だね。できればボクたちも活躍したいところだけれど。ハザマ君と違って、ボクはまだ活躍してないもの」

「ミカン君はポーションを作るアイデアを出してくれたし、要所要所で活躍してるよ」

「それはどうも」


 とりあえず、今は僕とミカン君とで話をしている余裕すらある。前衛と中衛は、ポーションに任せて多少の無茶ができる。大量のポーションは確実に役に立っていた。頑張って用意した甲斐があったってものだ。


 冒険者の陣形がじりじりと前進していく。行列を進んでいるような感覚があるけど、実際は前方で他の冒険者たちが戦っているんだよな。それは、なんだか不思議な感覚だ。そう思っていると、前を進む人の足が速くなった。これは!?


「ゴブリンたちが逃走を開始した! 逃がすな!」

「「「うおおおおー!」」」


 大男の声が聞こえる。僕たちも、急いだ方が良いだろう。そう思った時、ポケットから「まずいわね」と声がした。僕は走りながら、ポケットの中の女神様に返事をする。


「まずいって、何がですか?」

「これ明らかに陽動されてるわよ。監視センターのドローンをハックして様子を見てたから分かるの」


 ハック!? 女神様、やっぱりそういうことが、できるのね。一旦それは置いておくけど、陽動されてるってのは穏やかじゃないね。


「……女神様の言う通り、これは陽動だよねえ。小鬼って思ったより賢いかも」


 ミカン君も、これが陽動だと思ってるみたい。僕には良く分からないけど、二人がそう判断しているなら警戒が必要だ。もしかしたら、早速奥の手を使うことになるかもしれない。


 とにかく、今は他の冒険者たちを説得できるような雰囲気ではない。前方の冒険者たちはゴブリンとの戦闘で勢いづいているし、後方の冒険者は多くが直接戦闘能力に乏しい。ある程度冷静なものたちですら、前方の戦力に置いていかれまいと必死だ。僕も例外ではない。


 急いで前の冒険者を追いつつ、後方への警戒も怠らない。これが、結構難しい。ダンジョンには慣れてきたつもりでも、僕たちはまだまだ経験が足りないのだと痛感した。一見頼りになりそうなリーダー格の大男だって、ダンジョン探索のプロってわけじゃないんだ。


 僕たちは不味い方向へ突き進んでいる。それを分かっていても止められない。僕には、回りの人間を説得できるほどの話術はないし、上手い考えはない。信用だって、足りないんだ。だから、行動するしかない。ゴブリンたちが僕らを罠にはめようってんなら、真っ向から打ち砕いてやる。


 やがて、僕たちは柱の大広間へと、やって来た。それでも、僕たちは止まらない。前衛たちが、逃げるゴブリンを追う。僕たちは、そんな彼らを追う。たぶん、そろそろ、不味いことが起こるだろうと、そんな気はしていた。


 不意にそれは現れた。僕たちの後方、柱の影から小鬼の倍以上の体躯を持った魔物が姿を表す。前方からも「なんだっ! こいつら!?」と、困惑したような叫びが聞こえてきた。挟み撃ちか。姑息な!


 姑息な手には、姑息な手で応える。悪く思うなよっ! 僕はマジックバッグを開き、叫ぶ。


「グリーンベレー! 出撃だ!」

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