第25話 いざ、ゴブリン退治へ

 大量のポーションを送り、さらに可能な限りの物を作ったのが昨日。それから半日が経って、僕たちはソラキツネダンジョンの前に居る。


 僕やミカン君だけではない。ダンジョン監視センター側から要請を受けた何十人もの選りすぐりが、この場に居るのだ。僕がその中の一人だと思うと誇らしい気持ちになる。


 現在【a-24】ダンジョンではゴブリンが大量発生している。偵察隊からの報告によるとゴブリンの数はかなりのものだという。ざっと、千体近くのゴブリンがダンジョン内に発生しているとか。中には、ホブゴブリンという強力な個体も混じっているとのことで、恐ろしさも感じる。


 けど、きっと大丈夫だ。ミカン君も居るし、多くの冒険者経ちも一緒だ。それにたくさん作ったアイテムがある。なんとかなるさ。


 ミカン君の方を見ると彼は緊張しているようだった。この状況では、彼でも緊張するんだな。僕も、そしておそらく周囲の人々も緊張しているし、無理もないのだろう。


「……自衛隊とかが手を貸してくれれば良かったんだけどねえ」

「そうだね。でも【a-24】のダンジョンに入れるのは、その区分に選ばれた人間だけだからね。僕たちだけで、なんとかするしかない」

「だね。まあ、ハザマ君が居るんだ。きっとなんとか……なるよね……!」


 ミカン君、ちょっと自信が無い? 僕が彼を勇気付けられるなら、勇気づけてあげたいけど、なんと言ったものか。


「……ミカン君、僕はこのダンジョンへやって来た時、君から勇気をもらったんだぜ。君は凄いやつだ。そんな君が居るんだから、大丈夫だよ」


 僕の言葉を聞いて、ミカン君はポカンとしていた。なんだその顔は、僕が恥ずかしい台詞でも言ったみたいじゃないか。そう意識したら、恥ずかしくなってくる。


 やがて、ミカン君は安心したような表情になって笑った。彼の顔を見て、僕も安心を覚える。


「ハザマ君……その言葉、そっくりそのまま返すよ。でも、ありがとう」

「どういたしまして」


 ミカン君に少しでも元気が戻ったようで良かった。ダンジョンに突入する時間はだんだんと近づいている。そんな中、僕たちに近づいてくる男たちが見えた。その中の一人に見覚えがある。おそらく、老神迷宮探索部のメンバーだ。


 男たちは、僕とミカン君の前に立つ。な、なんだなんだ。こんな時に……こんな時だからこそなのか……? なんにせよ、なんか嫌だな。何て考えていると、一人の男が言う。


「お嬢様からの言伝てだ。スカウト対象に死なれるのだけは困る。だから、生きて帰ってこい。あと、せいぜい頑張れ。だとよ」

「へえ、老神さんが」

「それだけだ。活躍するのは俺たち探索部だからな。おまえ経ちは後ろに控えてろ」


 それだけ言うと男経ちは去っていった。へえ、圧が強いだけのお嬢様かと思ってたけど、老神さんも良いところあるじゃん。彼女たちのグループに入るつもりはないけど、その言葉はありがたく受け取っておくよ。


「老神さんたちにも、かっこいいところ見せないとね。今日の僕たちは配信ができないけど」

「監視センターから数機のドローンはついてくるって話だから、そのドローンに、僕たちの活躍を撮影してもらおう!」

「そう! 活躍だ!」


 僕たちの士気が高まってきたところで「ちょっと良いかしら」と声がした。声の出所はすぐに分かる。僕のポケットの中からだ。うちの女神様が何かエールでも送ってくれるのかな? そうだったら、嬉しい。


「ハザマ、ミカン、ちょっと良い?」

「なんでしょうか? 女神様」


 スマホを手に取ってみると、すでにミネルヴァのアプリは起動していた。銀髪の美少女が、画面の向こうから、こちらへ真剣な顔を向けている。どうも真面目な話らしい。しっかりと聞く必要があるだろう。


「あなたたちが色々準備している間に、調べてみたの。今回のゴブリン大量発生についてね」

「……調べたってどうやって?」

「まあ……ちょろちょろ~っとね」


 ……ちょろちょろ~の内容については聞かない方が良いような気がした。どこかにハッキングでもしたんじゃないだろうな? 気にはなるけど、はっきりさせたくない。もしかしたら、僕は恐ろしい女神様をこの世に降臨させてしまったのかもしれない。


「先に言っておくけど、ゴブリンが千体も第一層に沸くなんて明らかな異常事態よ。そこには必ず原因があるわ」

「確かに。それはそうだね。心当たりが?」

「無いわけじゃないの。ウボ=サスラという存在に、心当たりはあるかしら?」

「いや、無いね」


 ダンジョンで、そういうものは見たこと無いし、何かの物語りとかで聞いたこともない。僕にとってウボ=サスラは未知の存在だ。でも、その名前には、なんだか嫌な感じがする。


「女神様。今回の騒ぎは、そのウボ=サスラとかいうのが原因ってわけ?」

「ハザマ君。そこを調べるのがあなたたちの仕事よ。それっぽいやつが居たら、私にアナライズさせて、正しい情報を送るわ」


 ふむ、そういうことなら……今は多くを聞くのは、やめておこう。多くを聞きすぎて、混乱することになるかもしれない。


 ともあれ、時間だ。いざ、ゴブリン退治へ出発だ。

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