第28話 誰が何と言おうとも
「――ハザマ君!」
ミカン君に呼び掛けられてハッとした。戦いの中だというのに思考にふけっていたようだ。そのことを反省しつつ、僕はミカン君に問う。
「後方は落ち着いてきてる?」
「今はね。ホブゴブリンたちを倒して、こっちは良い状況だ。でも、問題は前衛だね。分かるかい? 前衛の冒険者たちがじりじりと押されている」
「ああ、分かる。このままだと、撤退が始まる。僕は、そうなる前に、あの巨大な粘体の魔物を倒したい」
前衛の冒険者たちが戦う巨大な魔物の姿は、ここからでも良く見えた。彼らは、隊列を維持するのが精一杯のよう。巨大な魔物には少しのダメージも与えられてはいないと見える。それは、良くない状況だろう。
「ミカン君、僕に考えがある」
「考え? 言ってみて」
ミカン君は、僕の話を聞いてくれるようだった。それが、今はありがたい。彼が話に乗ってくれるのなら、作戦はすぐ行動に移せる。
「手短に話す。聞いてくれ。こっちの状況は落ち着いてきてる。だから、僕は、君と人形の兵士たちを連れて陣形の外側から、巨大な魔物の横っ腹を突く」
「なるほど。少数精鋭ってわけだ」
「あの巨大な緑色したプリンみたいな魔物を倒さない限りゴブリンやホブが産み出され続ける。だからこそ、僕たちはあいつを倒さなきゃならないんだ」
「ああ、だから……行くんだろ。だったら、すぐ行動に移るとしよう」
ミカン君は手近な冒険者に声をかけて「ここは任せる」とだけ伝えた。相手の冒険者は困惑しているようだったけど、頷き「任された!」と応えてくれた。その返事に背中を押されるような感覚があった。凄く、助かる!
「行こう! ミカン君!」
「ああ、行こう!」
僕の動きにミカン君は合わせてくれる。完全な、独断行動。後で怒られるかもしれない。けど、この選択が必要だって信じてる。無事に帰れたらミカン君に何か奢ろう。君は僕にとって最高のパートナーだ。
冒険者たちの陣形から外に飛び出すと、思いの外、魔物が多い。ゴブリンやホブゴブリンの群れを倒しながら進むのは大変だけど、味方の流れを逆に進むよりは楽なはずだ。味方の混乱も引き起こさずに済む。とにかく、魔物を倒しながら前進すれば良い。そう考えると、気持ちは楽だとさえ言えた。
僕が名付けたグリーンベレーたちが付いている。ミカン君も一緒だ。彼らが一緒なら、心強い。物語に出てくる魔王だろうが倒せてしまえる気がした。いや、きっと今の僕たちなら、どんな敵にも、負けないさ。
襲いかかってくる魔物たち。それを、兵隊たちが翻弄し、ミカン君が斬り伏せる。僕は彼らと共に、とにかく前へ。前へと走る。僕たちは猛烈な勢いで、巨大な粘体へ向かっていた。怖くはあるけど、それ以上に、やってやるって気持ちが強い!
緑色の巨大な粘体、女神様はウボ=サスラの亜種だと言っていた。そいつは、魔力A以上の攻撃しか通用しないのだという。僕たちは、ダンジョンの低階層を探索し始めた低レベルの冒険者たち。そんな僕らにだって、必殺の武器がある。僕が名付けた木の枝【エクスカリバー】こいつがあれば、ウボ=サスラにも致命的なダメージを与えられるはずだ!
「ハザマ君! 僕が血路を切り開く! 君は、あのプリンやろうに一撃を与えることだけを考えるんだ!」
「分かってる! 絶対に! やってみせるよ!」
決意を込めて、腰のベルトからエクスカリバーを引き抜いた。ウボ=サスラまで、あと少し……!
多くの魔物を倒して進み、そして今! 僕たちはウボ=サスラの横っ腹までたどり着いた。横っ腹で、合ってるだろうか? いや、今はそんな疑問はどうでも良い。僕の必殺の一撃を、こいつにぶち当ててやる!
「こいつはエクスカリバーだ! 誰が何と言おうとも、エクスカリバーだあああ!」
自身を鼓舞するように叫び、緑色の巨体にエクスカリバーを刺した。押し込みながら魔力を込める。次の瞬間、凄まじい魔力の爆発が、前方に向けて起こった! 至近距離から魔力の爆発を受けた巨体は、その半分以上を失った。やったか……!
……いや、だめだ……! 緑色の粘体は再生を始めている。確かにダメージは与えられているが、これじゃあ足りない。そんな……万事休すか……?
「……あきらめないで!」
その時、僕の手を取る者が居た。僕はその人物の顔を見る。そこには、強気に笑うミカン君の顔が、あった。彼の顔を見るだけで、前進に力が漲るかのような感覚がある。これは、錯覚か? 本当に力が漲っているのか。
思考が加速していき、数日前に知ったある情報のことが思い出された。エクスカリバーは、使い手の魔力に依存してその威力を上げる聖剣。使い手とは、一人には限らないのではないのか? そうだとしたら、きっと勝てる。希望が湧いてきたぞ!
「ミカン君! 二人でやろう!」
「ああ! 二人で!」
僕一人の魔力では足りなくても、ミカン君と二人で合わせた魔力なら! 僕たちは、共に聖剣へ魔力を込めた。そして、辺り一面を包むほどの光と、凄まじい爆発が、今度こそ、ウボ=サスラを討ち滅ぼした……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます