第28話 待唄の廃塔での出会い
ライナスが「待唄の廃塔」を次の目的地と宣言した夜。採掘村ディープデールの宿屋で休息を取る一行の中で、イアンだけが一人、こっそりと村長を訪ねていた。
「村長。このディープデールはミスリル鉱山だと聞いた。この村には、ミスリル製の武器を扱っている鍛冶屋はいるか?」
イアンは素っ気ない態度で探りを入れるように尋ねた。彼は、己の復讐を果たすために、常に少し大人ぶった態度をとってはいるが、その実、他人とのコミュニケーションの取り方があまり上手くない。
カーライルの宿でレイリアにミスリルの山脈を目指すと言われた際、イアンがミスリルの山脈に興味を示したのは、他でもないミスリル製の武器を手に入れられるかもしれないとの期待があったからだった。
どのタイミングで村長にミスリル武器のことを尋ねていいか悩んだ結果、こんな夜更けに一人で尋ねることになったのだった。
「強力な魔族を相手にするには、今の鋼の剣では心許なくてな……もしミスリルの武器があればもう少しマシな戦いができるかもと……」
イアンの素っ気なくも遠慮がちな言葉に、村長は柔らかな笑顔で応えた。
「イアン様は勇者様でしたな。まさかこのような村を天啓の勇者様が救ってくださるとは……。そういうことでしたら、感謝の印として、ぜひこれをお受け取りください!」
村長は奥の部屋へ行ったかと思うと、丁寧に布に包まれた一振りの剣を持って戻ってきた。
「これは、当村の最高のミスリルで鍛え上げた、王室にも献上していない一振りの名剣です。どうぞ、これを使って魔王を討伐してください」
イアンは「……助かる。ありがとう」と素っ気なく答えたが、その顔は、村長の優しさと、ミスリル剣の刃の美しさを前にし、嬉しさからか少し赤くなっているように見えた。
その剣は、ミスリル特有の鈍い銀色の光を放っており、その柄から伝わる冷たさが、イアンの手に馴染むようだった。イアンがミスリル剣を握りしめたその瞬間、彼の左胸の聖痕が、誰も気づかないほど微かに、しかし確かに光を放つ。それは、天啓の力がこのミスリル剣を最高の武器として認めた証だった。
翌朝、イアンは新しいミスリル剣を携えていた。
ライナスは、イアンの剣がミスリル特有の銀色に輝いているのを見て、自分のことのように喜んだ。
「おお! イアン! その剣はどうしたのだ!」
「村長から譲り受けた」
「ハハハ! そうか! 私の指導のおかげで、イアンもようやく勇者としての自覚が芽生え、周囲からもそれが認められだしたのだな! その素晴らしい剣で、私と共に囚われの姫を救出しようではないか!」
ライナスはイアンの背中をバシバシと叩きながら、一行を「待唄の廃塔」へと急がせた。
一行が待唄の廃塔に近づくにつれ、寂しげで美しい女性の歌声が風に乗って聞こえてきた。その歌声は、永遠の孤独を嘆いているかのように哀切に響く。
「おお! この悲しみに満ちた歌声! まさに私を待ちわびる囚われの姫の声ではないか!?」
ライナスは塔から聞こえてくる美しい歌声を聞き、囚われの姫が実在していることを確信し、感動した。
塔に近づくと、その入り口を守るように数人の魔族が立っているのが見えた。
「ライナス様、先制攻撃をお願いできますか?」
「おお! 任された!」
スージーの指示で、ライナスは魔族の番兵に向けて炎の剣の一撃をお見舞いする。燃え盛る炎で焼かれ、慌てふためく魔族達を、イアンがミスリル剣を使い、確実に屠っていく。
その後も塔の中で遭遇する魔族たちに対し、見事な連携を見せるライナスとイアンの活躍により、順調に塔を進む一行。ついに塔の最上階に達したライナスは、最上階にある部屋の扉を発見した。
ライナスは「ここに姫が囚われているに違いない!」と言うと、その扉を蹴破って突入した。
開け放たれた扉の先には、豪華な装飾が施された部屋で、美しい真っ赤なドレスを纏い、窓辺で物憂げに歌を唄う金色の髪を両側でツインテールに結んだ、碧眼の女性がいた。
(なぜかしら……あの女性。どことなくライナス様に雰囲気が似ている気がする)
レイリアは、その女性に違和感を感じたが、今はそのことを気にするのは後回しにすることにした。
ライナスは、その美しい姿に圧倒され、伝説の剣を収めて床に跪いた。
「ああ、美しい姫よ! 騎士王の血を引きし、ランドール王家の王子ライナスが、今、あなたを助けに参上しました!」
「まあ! あなたが私の白馬に乗った王子様なのね! やっと来てくださった! わたくしはゼルリナ。ここでずっと貴方様が助けに来てくださるのを待っていましたのよ!」
ゼルリナと名乗った美しい女性は、ライナスを見て、顔を一気に輝かせた。彼女の瞳には、外界から隔絶された塔の中で、自分を助けに来てくれる存在だけを信じてきた純粋な希望が宿っていた。どうやら、彼女の瞳にはライナスが白馬に乗った王子様に見えているらしい。
イアンはライナスとゼルリナのやり取りを冷めた目で見ていた。
ライナスは、自分の考えと姫の考えが完璧に一致していることに「これこそ運命!」と確信し、天にも昇る気持ちになっていた。
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