第25話 新たな役割、新たな旅路

 レイリアとスージーが隣室から戻ると、部屋には、まだベッドの上で落ち込んでいるライナスと、壁に寄りかかったままのイアンがいた。

 レイリアは、もはやライナスの落ち込みを慰める言葉は使わなかった。彼女の瞳は、今後の計画を記した未来の設計図を映し出していた。


「ライナス様。わたくしとスージーで、今後の計画についての話し合いがまとまりました。まずはライナス様。あなたの鑑定結果についてですが……」


 ライナスは枕から顔だけを出し、不機嫌そうにレイリアを見た。


「もういい。私はどうせただの『王子』だ。お前たちはそこの勇者イアンと共に魔王討伐の旅を続けるがいい。私は一人で、『騎士王の物語』の聖地巡礼の旅に出る……」

「お待ちください。ライナス様がいなければこの旅はうまく行きません!」


 レイリアはそう言うと、ライナスに微笑みかけた。


「ライナス様は、ただの『王子』ではございません。ライナス様は、初代騎士王と同じ、最も重要な役割を担うために選ばれた特別な役割を持つ王子様なのです」


 ライナスは、レイリアの言葉に勢いよくベッドから起き上がった。


「な、と、特別!? ど、どういうことだ!?」


 レイリアは、優雅に、しかし言葉に重みを持たせて語り始めた。イアンはレイリアのその仕草を「芝居くせぇ」とでも言わんばかりの冷めた目で見ていたが、ライナスはそんなことにはまったく気が付かない。


「これは公にはなっていない話なのですが……、初代騎士王様は、勇者ではありませんでした。初代騎士王様は、勇者を導き、共に魔王を討伐した旅の仲間だったのです。そして、その後、荒んだ世界の復興のためにランドール王国を築いた方だったのです。騎士王の物語は、確かにそのすべてが真実ではないのかもしれませんが、決して嘘、偽りの物語でも無いのです。初代騎士王様は己の力で道を切り開き、勇者を助け、彼の力を最大限に引き出す、指導者としての役割を担っていたのです」


 レイリアは、ライナスの伝説の剣に視線を送った。


「ライナス様。あなたは、騎士王の血筋と伝説の剣を持っています。そして、私たちには天啓の勇者たるイアン様がいる。ライナス様は、初代騎士王と同じく、勇者を導くために選ばれたのだと考えます。その使命をまっとうするために、ライナス様には王子の権威と、類まれなる炎の力が与えられたのでしょう」


 ライナスは、鑑定で「王子」と出たことへの屈辱が、「勇者を導く指導者」という崇高な使命に昇華されたことで、顔を一気に輝かせた。


「おお! なるほど! 『勇者を導く指導者』! 私の使命は、このイアンという若き勇者を、騎士道精神を持つ真の勇者となれるよう導き、共に魔王を討伐することだったのか!」


 ライナスの目が、新たな使命感で燃え上がった。彼はイアンに向き直った。


「聞け、イアン! お前は確かに勇者なのかもしれんが、真の勇者を名乗るにはまだまだ未熟と言うことだ! この旅で、私がお前の助けとなり、また導いてやろう! 騎士王の血を引く私が、お前の勇者としての力を完全に開花させてやる!」


 イアンは、その傲慢な言葉に、額に青筋を浮かべた。


「ふざけるな! 俺のこの力は、魔王への復讐のため、命を懸けて磨き上げたものだ。騎士ごっこの指導なんか必要ない! お前らの遊びに付き合う義理なんてないぞ!」


 イアンは立ち上がり、レイリアを鋭く睨んだ。


「姫、お前がライナスのために仕組んだことだろうが、俺のことはただ利用するだけにしておけ。指導だの更生だの、余計なことに付き合う気はないぞ」


 レイリアは、イアンの反発を予想していた。彼女は微笑みを崩さず、彼の復讐心を煽る言葉を選んだ。


「イアン様。あなたは、故郷を滅ぼした魔族、ひいては魔王への復讐を望んでいます。そして、私たちも魔王討伐という最終目標を持っています」


 レイリアは、テーブルの地図を指差した。


「前にもお伝えした通り、ライナス様の力は、あなたの復讐をより確実なものにするための『手段』です。あなたは、ライナス様をあなたの復讐の手段として利用すればいい。最も強力で最も安全な道筋を、あなたは拒否するのですか?」


 イアンは、レイリアの理路整然とした説得に言い返すことができなかった。彼の復讐心は、レイリアの言う通り、最短距離を求めていた。


「チッ……。わかった。せいぜい、お前らのことを利用させてもらう」


 ライナスは、イアンのこの「反抗的な承諾」を、「指導者への照れ隠しの反抗」と解釈した。


「ハハハ! よし! その反骨精神も、やがて騎士道精神に変わるだろう! これで旅の目的は決まったな! 勇者の更生と、魔王討伐だ!」


 レイリアは、ライナスが目を輝かせている間に、素早く次の目的地を提示した。


「はい。では、イアン様も仲間に加わりましたし、新パーティーでの新たな旅の始まりです。まずは、東にある『ミスリルの山脈』を目指しましょう。あの山脈の麓には、魔族の活動が活発な町があると聞きます。そこを制圧することが、指導者としての最初の一歩です」


 イアンは、「ミスリルの山脈」という言葉に、僅かに興味を示した。


 レイリアは、ライナスが「指導者」という役割に夢中になっている間に、ライナスという大国の王子が持つ権威と、イアンと復讐に燃える最強の戦力の二つの力の使い道について、考えを巡らすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る