第24話 王家の秘密

 宿屋に戻ったライナスは、ベッドにうつ伏せになり、意気消沈していた。


「騎士王の血を引く私が……ただの『王子』だと……」

「ライナス様、お気になさらないで。鑑定魔法など、不完全なものにすぎません」


 レイリアが優しく慰めるが、ライナスは枕に顔を埋めたまま一言も喋らなくなってしまった。


 レイリアは地図を広げていたテーブルにスージーを呼び寄せた。


「スージー。今回のライナス様の鑑定結果について、聞きたいことがあります」


 レイリアは声を潜めた。


「ライナス様は、騎士王の血を引く正統なランドール王家の王子です。しかし、鑑定結果はただの『王子』とだけ。これは、天啓によって選ばれし者であるイアン様の鑑定結果、『勇者』とはあまりに違いすぎると思いませんか?」


 レイリアは真剣な眼差しで、スージーを見つめた。


「騎士王の物語では騎士王そのものが勇者のように語られていますよね? 騎士王の血筋を持つ者が、『勇者』でないことなどあり得るのですか? 確かに勇者がどのような存在かを語る文献に心当たりは有りませんが、それでもこれは……。スージー、あなたはランドール王室の直属の護衛。何か、私たちには知らされていない、ライナス様の血筋に関する秘密を知っているのではないですか?」


 スージーは、いつもの無表情を崩さなかったが、その視線は一瞬、大きく揺らいだ。彼女は躊躇いながらレイリアにしか聞こえない極めて小さな声で、「隣の部屋で話をさせていただけますでしょうか?」と囁いた。


 レイリアは、地図を広げていたテーブルを片付けると、イアンに視線を向けた。


「イアン様。わたくしとスージーで、少し内密な話をさせていただきます。お手数ですが、ライナス様とこの部屋に残っていていただけますか?」


 イアンは、ベッドでうつ伏せになったままのライナスを一瞥し、冷めた視線をレイリアに戻した。


「チッ……。めんどうだな……。とりあえずライナスは見張っとくから早めに頼むぞ」


 イアンは、それ以上何も言わず、再び壁に寄りかかった。文句を言いながらも、大人しく言うことを聞いてくれるところを見ると、イアンは少し口調が強いだけで、性根はいい人なのだろうとレイリアは思った。


 レイリアはスージーを伴い、隣の空き部屋へと移動した。扉が静かに閉じられると、レイリアはすぐにスージーの腕を取った。


「さあ、スージー。話してください。騎士王の血筋にまつわる、私たちには知らされていない秘密とは、一体何ですか?」


 スージーは、隣室で落ち込んでいるライナスの方向をちらりと確認すると、隣室に聞こえないよう小さな声で、レイリアに語り始めた。


「……レイリア様。私が申し上げられるのは、王家でもごく一部の者にしか伝わっていない『真実』でございます」


 スージーは、深く息を吸い込んだ。


「実は……初代騎士王は、勇者ではございませんでした」


 レイリアは、そのあまりにも衝撃的な事実に、息を呑んだ。


「な……!? そんな馬鹿な。ライナス様が崇拝している騎士王の物語、あの建国の歴史書には、騎士王が自ら剣を振るい、魔王を討伐したと記されています!」

「あれは、建国神話として『箔をつけるため』に、書き換えられた歴史にございます」


 スージーの声は、鉛のように重かった。


「実際には、初代騎士王にもイアン様と同じように天啓を受けた『真の勇者』が、旅の仲間にいたのです。騎士王は、あくまでパーティの一人として、その勇者を支援していたにすぎません」


 スージーは続けた。


「そのため、ライナス様が鑑定で『王子』と出たのも、道理にかなっています。ライナス様は、『真の勇者(イアン様)』を導き、支援するという、騎士王と同じ役割のために選ばれたのでしょう」


 レイリアは、衝撃で体が震えるのを感じた。


「つまり、ランドール王家は勇者の血筋ではなく、ライナス様は本当に勇者ではないと……?」

「その通りでございます。現に、歴史上、魔王が現れる度に、どこからともなく天啓を受けた勇者が現れ、ランドール王家はその勇者を水面下で支援してきた記録が残っています」


 レイリアは、すべての謎が繋がったことに愕然とした。同時に、一つの疑問が湧き上がった。


「では、なぜ、ライナス様はそのことをご存じないのですか? 自分の役割を知っていれば、あのように意気消沈するようなことにはならないはずです!」


 スージーは、そこで初めて、苦しそうな表情を浮かべた。


「それが……ライナス様は、幼少の頃から騎士王の物語に心酔されすぎていたのです。あまりにも純粋で、情熱的な崇拝心の前では、誰もライナス様に真実を告げることができなかったのです。特に、ライナス様のご両親は、その情熱を奪うことを恐れ、敢えて黙秘を……できの悪い子ほど可愛いということでしょうか」


 レイリアは、スージーがさらっとライナスのことを「できの悪い子」と言ったことには触れなかった。

 ライナスの「純粋な心」が招いた、壮大な勘違い。レイリアは、深い衝撃と共に、強い確信を得た。


(ライナス様は、知らず知らずの内に初代騎士王と同じ道を辿ろうとしている。彼は今、本物の勇者たるイアン様を「更生すべき勇者」として仲間にし、共に魔王討伐を目指している。 これは果たして偶然なのかしら……それとも……)


 レイリアは、地図に指を滑らせ、新たな旅路を心に描いた。


「わかりました、スージー。すべて繋がりました。これで、私たちの旅の真の目的と、なすべきことが、明確になった気がします」


 レイリアの瞳は、祖国を救うための強固な決意と、勝利の光を帯びて輝いていた。

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