第23話 鑑定

 イアンの告白から一夜明け、カーライルの宿屋。

 ライナスは朝食の席でも落ち着きがなかった。イアンの十字の聖痕と、天啓により選ばれた勇者という事実は、彼の「騎士王の物語」を根底から揺さぶっていた。


「おい、イアン!」


 ライナスは、パンを無言でかじっているイアンに、フォークを突きつけながら詰め寄った。


「昨夜はお前の悲劇的な過去に圧倒されてしまい、お前が天啓に選ばれた勇者だということに納得してしまったが……、ならばこの騎士王の血を引く者たる私は、一体何なのだ!? 勇者ではないというのか!?」


 イアンは、ライナスの剣幕に心底どうでもいいという顔をしつつ、ため息混じりに答える。


「そんなこと、俺が知るわけないだろ。それに、俺の復讐には、お前の身分も、お前の事情も関係ない。俺は魔王に復讐する。それだけの話だ」

「ぐぬぬ……!」


 イアンの「知ったこっちゃない」という冷めた対応に、ライナスは悔しそうに唇を噛み締めた。


「レイリア、スージー! 決めたぞ! 私は今すぐ、このカーライルの冒険者ギルドに行く!」


 レイリアは、紅茶を優雅に飲みながら問いかけた。


「ライナス様、何のためにでございますか?」

「決まっているだろう! ギルドの鑑定とやらで、私も勇者だということを証明するのだ! 騎士王の血を引き、さらにはこの伝説の剣に選ばれた私が勇者でない訳がないだろう!? そもそもこの世界に、勇者が一人でないといけないなどという決まりはないはずだ!!」


 レイリアは顔色を変えた。


「ライナス様、お待ちください! 鑑定の結果は、時に……」

「うるさい! 真実を証明するまで、私は一歩も引かん!」


 ライナスはレイリアの制止を無視し、伝説の剣を引っ掴むと、勢いよく宿屋を飛び出していった。レイリアは深くため息をつき、スージーに目配せをした。


 一行は、再びカーライルの冒険者ギルドに到着した。

 バーンッ!とギルドの扉を派手な音を立てて開いたライナスは、そのままズカズカとギルドの受付の前に立つと、胸を張り、伝説の剣を鞘から引き抜くと、声高らかに言い放った。


「さあ、鑑定するが良い! 私が天より与えられし使命を、しかと証明してみせよ!」


 受付嬢は、ライナスの突然の登場と、伝説の剣から立ち上る熱気に呆気にとられてしまった。


「あの……突然何用でしょうか?」


 恐る恐る、受付嬢が目の前の偉そうな男(ライナス)に尋ねる。


「あー……すまない。エスタ」


 ライナスの後ろから頭を抱えたイアンが受付嬢・エスタに話しかけた。


「まぁ! イアン様。もうクエストは完了されたんですか?」


 エスタと呼ばれた受付嬢がライナスを無視してイアンに答えた。


「ああ。北の森の調査は完了だ。噂通り、魔族が隠れていたが、こいつらが助けてくれたおかげで、なんとか撃退することができた」

「こちらの方々ですか……?」


 その言葉を聞いてエスタはライナスの顔をチラリと覗いた。どうやらイアンが助けられたという話に納得していない様子である。


「そこでだ。こいつらも冒険者ギルドに所属したいらしいから、手続きをしてやってもらえないかな?」

「なっ!? 私は別に冒険者ギルドになぞ入るつもりは……ぐふっ!」


 ライナスが途中まで言いかけたところで、スージーが横からライナスの腹部に肘鉄を打ち込む。


「ライナス様、鑑定を受けたいのであれば冒険者ギルドへの入団手続きをするのが手っ取り早いかと。また、冒険者ギルドに所属することは今後の旅でも利点があると思われます。ここはイアン様の提案を受けましょう」


 スージーが苦しむライナスを気にする様子もなく淡々と伝えた。


「なるほど、そういうことであれば問題ありませんので、さっそく手続きを行いますね」


 エスタはそう言うと、後ろの棚から水晶のようなものを持ち出した。どうやら鑑定に使う魔法道具のようだ。


 エスタは魔法の水晶をライナスに向け、術をかける。水晶は一瞬、激しい光を放ち、その光が収まると、水晶の中に静かに文字を浮かび上がらせた。


 鑑定結果:ライナス・ランドール

 クラス:王子

 スキル:炎魔法(※ランクは不明)


 エスタは息を呑んだ。


「おう……じ……?」


 ライナスは、その結果を信じられず、鑑定結果を指差して何度も確認した。エスタも、浮かび上がった「王子」の文字に困惑しきっている。

 イアンは受付カウンターに寄りかかり、「だから知らねえって言ったろ」と、呆れたような顔でぼそっとツッコミを入れていた。


 レイリアは、すぐさまエスタの前に身を乗り出した。


「今の鑑定結果は、他言無用でございます。この結果を外部に漏らした場合、王室への侮辱とみなし、しかるべき処置を取らせていただきます」


 エスタは、レイリアの静かな、しかし有無を言わさぬ威圧感に青ざめ、何度も頷くしかなかった。レイリアはなんとか事態を収拾したが、ライナスの顔は、まるで幽霊でも見たかのように青ざめていた。

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