第20話 北の森の遭遇
ライナスは、北の森へ向かう道中、伝説の剣を片手に意気揚々としていた。
「あの勇者を騙る青年に私が導きを与え、共に魔族を討伐することこそ、騎士王の血を引く者の真の使命だ!」
レイリアは、隣で熱弁を振るうライナスに「おっしゃる通りですわ」と適当な相槌を打ちながらも、周囲の警戒を怠らなかった。イアンが本物の勇者だった場合、ライナスとの仲をどのように取り持ち、イアンを仲間に引き入れるか、それがレイリアの最大の課題だった。
森の奥へ進むにつれ、空気が重くなり、道に異変が起こり始めた。
「ライナス様、これを見てください」
スージーが指差した先には、オークらしき魔物の死体が横たわっていた。その胴体には、鋭い剣による一撃で深々と切り裂かれた痕がある。
「これは……、偽勇者の仕業だというのか!? あいつは私の活躍の場まで奪うつもりか!」
ライナスはあたりを見回しながら、的外れな不満を口にする。
しかし、その死体は一体だけではなかった。さらに奥へ進むと、ゴブリン、コボルト、そして強大なトロールさえもが、全て剣の一撃で絶命していた。
「……まるで、嵐が通り過ぎた後のようね」
レイリアは喉の奥で呟いた。その圧倒的な殺傷能力の高さは、イアンの底知れない実力を物語っていた。
魔物の死体の道を辿ること数十分。突然、前方の森の奥から巨大な爆炎と凄まじい轟音が響き渡った。
「あっちか!」
ライナスは叫ぶが早いか、炎の剣を掲げて走り出した。
レイリアとスージーが急いで後を追うと、森が大きく開けた空間に、彼らが探していた青年剣士イアンと一体の魔物が対峙していた。
黒いコウモリのような翼を持ち、人間のような姿をしたその魔物は、鋭い爪から魔力を放ち、負傷したイアンを追い詰めていた。
イアンは片膝をついていた。左腕からは血を流し、体のいたるところに火傷を負っているように見える。しかし、その赤い瞳の奥に灯る炎はまだ消えていないようだ。
(あれが、魔族……!)
レイリアは顔色を変えた。
「見つけたぞ! 偽りの勇者が、魔族に圧倒されているようだな!」
ライナスはこの状況を、「真の勇者が偽りの勇者を救う絶好の場面」と解釈し、迷いなく魔族との戦闘へと突入した。
「そこの魔族め! 騎士王の血を引く者の真の力を思い知れ!」
ライナスは魔族目掛けて突進し、炎の剣を振り下ろした。魔族は突然の乱入者の突進に驚愕し、イアンへの攻撃を止めて防御に回る。
ガァンッ!という剣と魔力の衝突音。その一瞬の隙を見逃さず、レイリアは動いた。
「スージー! ライナス様を援護して! 私はあの青年を助けます!」
レイリアはすぐに負傷したイアンの傍らに駆け寄り、その傷ついた左腕にそっと手をかざした。
「『癒しよ』!」
白い光がイアンの傷口を包む。イアンは驚いてレイリアを見上げた。彼は突然の乱入者に困惑していた。
その間にも戦闘は続く。スージーは驚異的なスピードで魔族の背後に回り込み、警棒で猛攻を仕掛けた。その猛攻に魔族がわずかにバランスを崩した瞬間、ライナスは待っていたとばかりに、全身の力を込めて炎の剣を魔族に叩きつけた。
ズガンッ!
魔族は炎の剣の直撃を受け、凄まじい悲鳴を上げながら数メートル後退した。
「ふん、仲間が潜んでいたか……。まあいい、これ以上の深追いは無用。死んだはずの勇者が生きていた……その事実こそが、魔王様への何よりの献上品だ。今回は運が良かったな、勇者よ! 拾った命、せいぜい大事にするがいい!」
魔族はイアンに対して捨て台詞を吐くと、黒い翼を大きく広げ、瞬く間に森の上空へと飛び上がり、撤退していった。
「どうだ見たか、青年! 真の勇者たる私の炎に、魔族は恐れをなして逃げ出していったぞ!」
ライナスは、逃げ去る魔族に大声で勝利を宣言し、剣を掲げて歓喜した。ライナスは、イアンが与えていたであろうダメージと、スージーの的確な援護、そしてレイリアの回復魔法があったからこその勝利だという事実に、全く気づいていなかった。
一方、イアンは回復した左腕を握りしめ、厳しい目でライナスとスージー、そしてレイリアを順に見ていた。
(こいつら……。不意打ちとは言え、俺を追い詰めた魔族を退けるほどの実力を持ってるってことか。一体何者なんだ?)
とりあえず魔族の脅威は去ったものの、イアンの顔には、突然の乱入者達に助けられたこの状況に、困惑の色を浮かべていた。
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