第19話 姫の計画と王子の暴走

 翌朝、ライナスは「真勇者更生」という崇高な使命に燃え、いつも以上に張り切っているように見えた。レイリアの説得により、ライナスはイアンを討伐対象ではなく、導くべき堕落した勇者として捉え直していた。


​「さあ、レイリア! スージー! あの勇者を騙る青年が、騎士王の血を引く者の真の器に触れる時だ! 奴の卑しい行いを止め、魔王討伐という崇高な使命に目覚めさせてやるぞ!」


 ​どうやらライナスは、いまだにイアンという青年を完全に勇者と認めるつもりはないようだ。


 ​一行は、イアンが所属しているという冒険者ギルドへと向かった。ギルド内は早朝から多くの冒険者でごった返しており、ライナスたちは目立たないよう、ギルドの入口が見える位置でイアンを待ち伏せた。


 ​しかし、太陽が昇り、ギルドへの人の出入りが落ち着き始めても、イアンは一向に姿を見せない。

 ​ライナスはしびれを切らし始めた。


​「ふむ。卑しい行いをする者は、私を恐れて出てこられないようだな!」

「ライナス様、焦っても仕方ありませんわ。もう少し待ちましょう」


 ​レイリアは内心焦りながら、ライナスを鎮めようと努めた。


(本当に現れないのかしら……)


 ​このままでは埒があかないと判断したレイリアは、スージーに目配せをした。スージーは無言で頷くと、ギルドの受付へと向かい、静かに受付嬢と話し始めた。


 ​数分後、スージーは戻ってきて、レイリアに耳打ちした。


​「姫様。イアンという青年剣士のことですが……。カーライルの北の森に魔族が現れたとの報告があり、その調査依頼を請け負って、朝早く既に出立したとのことです」


 ​レイリアは顔色を変え、奥歯を噛み締めた。


​「魔族の調査依頼……。もし本当に魔族がいるのだとしたら、かなり危険な任務なんじゃないかしら……」


 ​レイリアは、このまま街でイアンの帰りを待つべきだと判断し、ライナスに提案しようとした。


​「ライナス様、ここは彼の戻りを待ちましょう。もし本当に魔族がいるのだとしたら、かなり危険が――」

「待て、レイリア!」


 ​ライナスはレイリアの言葉を遮り、ギルドの喧騒の中心で声を荒らげた。


​「魔族が出たのであれば、騎士王の血を引く真の勇者たる私が行かずに、どうするというのだ!?」


 ​ライナスの騎士道と「真の勇者」(自称)としての自負が、レイリアの提案を完全に跳ね除けた。


​「あのイアンとかいう男が、勇者を騙っているのなら、私が奴に真の勇者とはどうあるべきかを見せつける必要がある!」


(あぁ……なんとなくこうなるような気はしていたわ……)


 ​レイリアは、いつものライナスの暴走を目の当たりにし、唖然としながらも、こうなったライナスには何を言っても無駄だと、諦めることにした。また、魔族との戦いは、魔王討伐を掲げるライナス達にとって、避けては通れないものであることは、レイリアもわかっていたのだ。

 ​さらに、レイリアとしても、イアンが魔族と接触する可能性がある以上、彼の力を失うわけにはいかず、結果的にイアンを追うことは間違った選択ではないと判断した。


​「……承知いたしました、ライナス様」


 ​レイリアは深いため息とともに、ライナスの言葉に同意した。


 ​こうして一行は、魔族とイアンがいるであろう北の森を目指すことになったのだった。

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