第17話 カーライルでの衝突

 一行を乗せた馬車は、強固な石壁に囲まれた商業都市カーライルの巨大な門をくぐり抜けた。

 町中には、アルカ村やベスタ村の比ではない喧騒が渦巻いていた。荷馬車がひしめき合い、傭兵や冒険者らしき屈強な男たち、異国風の商人が入り乱れる。


「この賑わいのどこかに、偽りの勇者が身を潜めているに違いない!」


 ​ライナスは興奮していたが、その隣に座るレイリアは冷静だった。


​「ライナス様。まずは宿を取り、情報収集をしましょう。スージー、この街の地理は把握していますか? 宿を探していただきたいのですが」

「はい。把握しております。このまま大通りを進んだ、街の中心付近に宿が一軒ありますので、そちらに向かうことにします」


​ スージーはそういうと、馬車を大通りへと進めた。ライナスは早く偽勇者を見つけたい焦りから、車内で伝説の剣を握りしめている。


​ 馬車が街の中心部に近い広場に差し掛かったその時、ライナス達の前方で騒ぎが起こっていた。


​「何事だ、スージー!」


 その騒ぎを聞きつけたライナスは、馬車のキャビンの窓から首を突き出し、騒ぎの起きている方向を凝視した。


 ライナスの視線の先、​広場の一角では、一人の青年剣士が、数人の屈強な男たちを地面に叩きのめしていた。​青年剣士は、この国では珍しい銀色の髪に、燃えるような赤い瞳をしていた。

 青年剣士は、剣の腕は立つようだが、その立ち居振る舞いは荒々しく、その赤い瞳には深い憎しみと執念のようなものが宿っていた。


 ​青年剣士は、倒れた男たちから、財布や宝石袋のようなものを無言で奪い取っている。


「ちくしょう、覚えてろよ!」


 そう吐き捨てる男たちに対し、青年剣士は冷酷な一言を放った。


「お前らが盗んだもんは返してもらうぜ。今度、盗みを働いたら、次はこんなもんじゃ済まさねえからな」


 ライナスの耳には、青年の言葉は届いていなかった。ただ、公衆の面前で、青年剣士が倒れている相手から金品を強奪している姿だけが、ライナスの目に飛び込んできた。それと同時に、騒ぎを聞きつけて集まっていた野次馬達の会話が、ライナスの耳に入ってきた。


​「あれが、噂の勇者イアンか? 腕は立つようだが、やることが荒っぽいな」

​ 「勇者」という言葉を聞いた瞬間、ライナスは激しい怒りに震え出した。


「見つけたぞ、偽勇者め!」


 ライナスは激しい怒りに我を忘れ、炎の剣を抜き放った。灼熱の炎に包まれた剣を持つライナスの突然の登場に、周囲の喧騒が一瞬で静まり返る。


「貴様が、騎士道を汚す偽りの勇者だな! 騎士王の血を引く者の名にかけて、その卑劣な行い、ここで悔い改めさせてやろう!」


 偽勇者呼ばわりされた青年剣士は、奪い取った金品を腰袋にしまうと、煩わしそうにライナスを見据えた。


「何だ、お前は。派手な格好しやがって。騎士王の血を引く者?」


 青年剣士は、ライナスをまるで相手にしてないような素振りで、吐き捨てるように告げる。


「俺は忙しいんだ。邪魔だから騎士ごっこはどこか他でやってくれ」

「貴様ァ!」


 その物言いに、馬鹿にされたと感じたライナスは、「我慢ならん」と怒りを爆発させ、炎を纏った剣を青年剣士に向けて振り下ろした。その一撃は、山賊を焼き尽くした時と同様の、凄まじい熱量と破壊力のはずだった。

 しかし、青年は動じることなく、手に持った剣でライナスの炎の一撃を受け止めた。


 『ガキィンッ!』という鋼と炎がぶつかり合う轟音が広場に響き渡り、炎の衝撃波が周囲の観衆を吹き飛ばす。青年の腕には凄まじい熱が伝わったはずだが、彼はその場を一歩も動かなかった。


(こいつ……私の炎の剣を受けて動じないだと!?)


 ライナスは驚愕した。青年の剣の腕は、ライナスの想像を遥かに超えていた。

 一旦距離を取り間合いを取る二人。そして、二人が次の一撃をぶつけるため、間合いを詰めて斬りかかろうとしたその瞬間、広場に駆けつけたレイリアとスージーが、ライナスと青年の間に割って入った。


「お待ち下さい、ライナス様!」


 レイリアが叫び、スージーが間髪入れずに二人の剣を警棒で叩き上げることで、二人の衝突は一時的に制止された。


 ​レイリアはライナスと青年剣士の戦いが中断されたことに安堵しながらも、すさまじい火力を持つライナスの攻撃を受け止めた青年の存在に、驚きを隠せないでいた。


​(あの炎の一撃を、なぜ彼は受け止められたの? この剣士は、ただ者ではないわ……!)


 ​レイリアは、ライナスの魔王討伐計画にとって、想定外の強大な壁が出現したことを悟り、早くもその場で、この事態をどのように収拾すべきか、頭を悩ませるのだった。

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