第15話 偽りの勇者の噂

 山賊を一掃した後、一行はベスタ村まであと少しというところまで来ていた。ライナスは山賊を一掃した際の炎の剣の威力に興奮し、御者台でスージーと先ほどの立ち回りについて熱く語り合っている。


 レイリアは疲労を隠しつつ、馬車のキャビンからから御者台のスージーに語りかけた。


「スージー。ベスタ村の村長には、ライナス様の素性を明かそうと思います」


 スージーは御者台から振り返り、少し驚いた表情でレイリアを見た。


「……姫様。それは、予定にはありませんでした」

「ええ。ですが、あの剣を手に入れた今、計画を変えるべきだと思うのです」


 レイリアは続けた。


「剣の素性はともかく、ライナス様は結果として伝説の剣を得ました。その結果を、単なる山賊退治で終わらせるのはもったいないと思うのです。いっその事、ライナス様の素性を明かし、村長に『王子が伝説の剣を抜き、山賊を退治した』という事実を領主へ報告させれば、その噂は瞬く間に国中に伝わり、ライナス様の名声はぐっと上がることになるのではないかしら」

「……つまり、今まではボンクラ王子が魔王討伐などと嘯きながら気ままな旅行でもしているのだろうと思われているところ、ライナス様が実際にその旅路の中で類まれなる功績をあげており、本気で魔王討伐を目指していることを国中に知らしめる、と」


 スージーは静かに納得した。


「ちょっと待て! ボンクラとはどういう……」

「承知いたしました。姫様のご判断に従います」


 スージーはライナスからの横やりを遮り、レイリアの指示に従うことにした。ライナスは「ぐぬぬ……」とうめきながらも、スージーに意見するのは諦めることにしたのだった。



 ベスタ村に着く頃、スージーは馬車に縄で括り付けられた山賊たちを引きずりながら、村長の家へと馬車を寄せた。山賊たちはライナスの炎の剣の威力に怯え命乞いをした後に、スージーにより捕縛されていた。山賊たちの服は焦げ、恐怖で完全に戦意を喪失していた。


 ​村長は変わり果てた山賊たちの有様と、彼らが手放した金品を見て、いったい何があったのかと状況を飲み込めずに不安そうしていた。


 レイリアは、疲労が抜けきらない顔に、静かな決意を浮かべ、村長に状況を説明することにした。


「村長様。これらは、全てライナス王子による功績です」


 村長は「王子……?」と目を丸くした。


「ライナス様は、ランドール王国の王位継承権を持つ王子です。我々は、魔王を討伐し、世界に平和をもたらすために旅をしております」


 レイリアは、ライナスが手にした剣を指し示し、毅然とした態度で説明し続ける。


「この剣は、ライナス様が試練を乗り越えた証。村長様には、ライナス様がこの伝説の剣を抜いたことと、ベスタ村を苦しめていた山賊を討伐した事実を、詳細に領主様へご報告いただきたいのです」


 レイリアは、「魔王討伐」をライナスの真実の愛を探す旅という私的な理由ではなく、世界平和のためという大義にすり替えて、ライナスの功績を最大限に広めようとした。

 村長は恐縮しつつも、この大事件をすぐにでも領主へ報告すると約束した。


 夜になり、山賊を退治したライナス達に対する、村人たちの感謝の宴が催された。ライナスは、伝説の剣を傍らに置き、村人たちの称賛を浴びることに大いに満足していた。


 レイリアとスージーは、楽しそうなライナスを横目に、今後の旅路についての情報収集のために村長と話をしていた。

 村長は酒を飲みながら、ふと思い出したように話し始めた。


「そういえば、最近、北にある大きな街、カーライルでも『勇者が現れた』という噂が立っておりましてな」


 ライナスは、勇者という言葉にピクリと反応した。


「何だと? 私以外の勇者だと?」


 村長は首をかしげる。


「はい。なんでも、その勇者は『冷酷な剣士』だとか。村を襲った魔物を倒した後、『報酬』を要求したとか、しなかったとか……」


 ライナスの顔から、宴の楽しい雰囲気は一瞬で消え去った。

 ライナスは、傍らの伝説の剣を強く握りしめた。彼の心の中で、「騎士王の物語」の中で語られる、騎士としての規範が、激しく揺さぶられていた。


(私以外の者が勇者を名乗るだと? しかも、報酬を要求するような卑劣な振る舞いをしているような輩が! それは、騎士道への冒涜! 「騎士王の物語」を汚す行為だ!)


 ライナスは、自分が信じる騎士道が汚されたように感じ、激しい怒りに駆られた。彼の目には、その「勇者」が、かつての魔法を使ってしまった自分自身と同じくらい許せない、偽物に見えたのだ。


「けしからん! そんな者は勇者ではない! ただの偽物、あるいは詐欺師だ!」


 ライナスは持っていた杯を机に叩きつけると、椅子から立ち上がり、剣を掲げた。


「レイリア、スージー! 次の目的地は決まったぞ! 我々は、カーライルへ向かう!」


 ライナスの突然の決断に、レイリアは疲れた表情を浮かべながらも静かに頷いた。


「かしこまりました、ライナス様。『偽りの勇者を討つ真の勇者』、その善行、必ずや王都に轟かせましょう」


 こうして、一行の旅の目的は、「偽勇者狩り」という、新たな物語へと進むことになった。​彼らが目指すカーライルの街では、ライナスが信じる「騎士王の物語」を根底から揺るがす、運命的な出会いが待ち受けているのだった。

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