第14話 山賊の誤算

 伝説の剣を手に入れたライナス一行は、試練の遺跡を後にし、ベスタ村への帰路に立っていた。


 ライナスは、先ほどまで「呪いの剣」として己の魔力を暴走させていた剣を、今はまるで恋人を愛でるような目でうっとりと眺めていた。剣身には魔力を込めるたびに、たゆたう炎の紋様が浮かび上がる。


「素晴らしい……レイリア! スージー! この剣は、まさしく騎士王の血を引きし私のために存在したのだ! 剣と炎、これぞ真の騎士のロマンだ!」


 ライナスは、炎魔法へのコンプレックスを完全に忘れ、この剣を「炎の力を極めし至高の剣術」の証だと、勝手に解釈していた。


 馬車のキャビンの中で、ライナスの隣に座るレイリアは、未だ魔力消耗による疲労を感じていたが、その表情は冷静だった。


(バカ王子が、自分のコンプレックスに引っ張られることなく、強大な炎を操る術を手に入れた。あとはこの力を、いかに効率よく今後の旅路で活用し、魔王討伐に繋げるかだわ)


 レイリアは、この「魔法剣」の力を試す絶好の機会が、すぐにでも訪れることを内心で望んでいた。


 ​馬車がベスタ村まで残り一時間ほどの地点にさしかかった頃、ライナス達が鬱蒼とした森の道を通過していると、突然、道の中央にバリケードが組まれ、周囲の茂みから十数人の山賊の一団が飛び出してきた。


 ​御者を務めるスージーは、すぐに馬車を止め、手綱を強く握りしめる。


 ​山賊たちは、手慣れた様子でスージー達に向かい武器を構える。リーダー格の男は、何事かと馬車から降りてきたライナスを一瞥すると、その腰にある剣を見て、ギョッとした表情を浮かべた。


​「おい、待て! その剣! それは、遺跡に突き刺さっていた伝説の剣じゃねえか!」


 ​山賊のリーダーと思しき男は、その顔に下品な笑みを浮かべた。


​「ちょうどいい。金目のものと、その剣を置いていけ。大人しく渡せば命だけは助けてやるぜ」


 ​レイリアは馬車のキャビンに身を潜めつつ、その状況を冷静に分析していた。レイリアは、この状況こそライナスの炎の剣の威力を試すのに、絶好の機会だと考えたのだ。


「待ちなさい、スージー」


 スージーが警棒を構えて山賊を一掃しようとするのを、キャビンの中から制止するレイリア。スージーが怪訝な顔をキャビンのレイリアに向けていると、ライナスが馬車の前に出て、山賊と対峙した。


 ​ライナスは、まるで待ち望んでいた獲物を見つけたかのように、歓喜に目を輝かせた。


​「フフフ……!」


 ​ライナスはゆっくりと剣を構えた。ライナスが伝説の剣の持ち手に魔力を込めると、剣が静かに熱を持ち始め、周りの空気が揺らめき始めた。


​「レイリア、スージー。ここは私に任せてくれ!」


 ​そう言うと、ライナスは山賊たちを一瞥し、大仰に宣言した。


​「騎士王の血を引く勇者の新たな武器が、ちょうどその真価を試す相手を探していたところだ! 貴様たちでこの剣の力、試させてもらうぞ!」


 ​山賊たちは、目の前で一人で大声を張り上げるライナスに油断し、「女の前だからって、調子に乗りやがって」と嘲笑した。

 ​ライナスは、剣を大きく頭上に振りかぶった。

​彼が意識したのは、炎魔法ではない。剣を振るう「力」、そして「騎士の信念」だ。剣に全ての意識を集中することで、彼は無自覚に剣に膨大な魔力を注ぎ込んでいた。


​「燃え盛る騎士の魂よ! 我が剣に宿れ!」


 ​ライナスの叫びと共に、剣身が一瞬で灼熱の業火に包まれた。そして​ライナスが頭上に振りかぶった剣を前方の山賊たちを薙ぎ払うかのように振り下ろした。それは単なる剣の軌跡ではなかった。


 ​ゴオォォォォ……ッ!


 ​剣が通った空間に、凄まじい熱量と炎の奔流が発生し、山賊たちの足元から森の地面を一瞬にして燃え盛る火の海へと変えた。炎は周囲の木々を舐め、山賊たちの退路を断つように燃え広がる。


 ​山賊のリーダーは、顔を煤だらけにしながら、その圧倒的な力を前に、腰を抜かし、戦意どころか思考そのものを停止させた。


​「ひ……ひぃ……な、なんだ、こいつは……!」


 ​剣の一振りで発生した業火は、ベスタ村の山賊がこれまで遭遇したどんな魔物よりも恐ろしく、彼らは剣を投げ捨てて、命乞いをし始めた。


 ​ライナスは、炎の海を見つめ、大いに満足した表情を浮かべた。


​「ふむ。威力は問題ないようだな。やはりこの剣は、勇者である私にふさわしい剣だ!」


 ​ライナスの「最強の魔法剣士」としてのデビューは、あまりにも鮮烈だった。レイリアは、炎の剣の脅威的な威力と、ライナスの喜びに浮かれる姿を目の当たりにし、この旅路の成功を確信したのだった。

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