第13話 呪いの剣、炎の剣

 レイリアは、ライナスを救い出し、なんとしても祖国を救うという使命に突き動かされ、燃え盛る炎の渦の中へ飛び込んだ。


 炎の熱風は容赦なくレイリアの金色の髪の毛を焦がし、呼吸を奪う。レイリアは炎の熱さに耐えながら、暴走する炎の中心にいるライナスの剣に、癒しの光を込めた手を伸ばした。


「レイリア姫! 危険です!!」


 スージーは何もすることができず、炎をものともせずライナスに駆け寄るレイリアに向かって、ただ叫んでいた。

 レイリアはスージーの叫び声を遠くに聞きながら、その意識は炎を放ち続ける伝説の剣に集中し、そして全身の魔力を解放した。


 癒しの魔法。それは確かに傷を癒す魔法ではあるが、その力の本質は「あらゆる『負の力』を中和する力」である。そのことをレイリアはしっかりと理解していた。


(癒しの力は、破邪の力。やったことはないけれど、私の癒しの魔法であれば、解呪だって可能なはず!)


 レイリアは、目の前の呪いの剣が持つ「魔力吸収と暴走」の負の螺旋を断ち切るために、自分の魔力全てを捧げる覚悟で、癒しの言葉を唱えた。


「『我が癒しの力よ、呪いを解いて』!」


 レイリアの指先から放たれた光と、剣の呪いの力が激しく衝突し、キィィィン!という凄まじい音が鳴り響く。


 その音が収まると共に、剣から溢れていた炎が、まるで引き潮のように剣身に収束していく。

 レイリアの目論見が成功し、呪いの力が断ち切られ、剣がライナスの魔力を吸い上げるのをやめたのだ。


 炎が収まると、ライナスはガクッと力を失い、その場に膝をついた。レイリアもまた、限界を超えた魔力消耗により、その場に崩れ落ちる。


「ライナス様! レイリア姫!」


 スージーはすぐにライナスとレイリアの近くに駆け寄り、崩れ落ちるレイリアの体を支えた。彼女は周囲の安全を確認しつつ、ライナスの無事も確認する。


 ライナスは、魔力消耗による疲労から息を切らしながらも、自分の手に残った剣を、見つめていた。剣から魔力が流れなくなったことを確認すると、彼は剣を杖代わりに地面に突き刺し、立ち上がる。


 ライナスは、スージーに抱えられたレイリアの無事を確認すると、静かになった剣に何気なく魔力を流し込んでみた。すると再び剣身がゆらりと炎を纏う。


「!?」


 ライナスが驚いて魔力を流すのをやめると、剣身に揺らめいた炎もすっと消えた。


 ライナスは、何が起きたのか理解が追いつかず、しばらく一人考え込んでいたが、今起きた事実を把握した途端、ライナスの疲労に沈んでいた顔が、パッと輝き出す。


「こ、これは!?」


 伝説の剣は、解呪されたことにより、魔法剣へとその性質を変えたのだ。魔力を流すと、その剣身には燃える炎の紋様が浮かび上がると共に炎が噴き出し、魔力が尽きるとそれは消える。再び魔力を込めれば炎が剣を覆う。


 炎を帯びたその剣は、ライナスの都合の良い解釈では、「魔法」ではなく、「炎の魔剣」という、中二心をくすぐる物体となっていた。

 ライナスは剣身から湧き上がる炎を見て、歓喜で顔を歪ませた。


「これだ! これこそが騎士王の血を引く勇者にふさわしい! 我が炎の力を剣によって制御する! これは単なる魔法ではない! 魔法剣! 騎士のロマンなのだ!」


 ライナスは、魔法を使うという自分のコンプレックスを、「魔法剣」という新たな形で正当化することに成功したのだ。彼の瞳は、新たな希望に満ちていた。


 その横で、スージーが心配そうにレイリア姫を介抱していると、ぴくっとレイリアの瞼が動いた。


「レイリア姫、大丈夫ですか?」


 スージーは、腕の中で意識を取り戻したレイリアを確認すると、横で今だに伝説の剣を片手に嬉しそうにはしゃぐライナスに肘鉄をくらわす。


「ライナス様、レイリア姫に何か言うことがあるのではないですか?」


 肘鉄をもろにみぞおちに食らったライナスは、苦しそうにうずくまりながら、スージーの怒気をはらんだ声と、氷点下以下の視線に、ようやくこの状況はマズイと気がついたのだった。


「あ、ああ……。助かったぞ、レイリア。まさかあの剣が呪われていたとは思わなかったのだ……申し訳ない……」


 スージーに抱えられているレイリアの顔を覗き込みながら、ライナスは申し訳なさそうに謝罪した。


「ライナス様がご無事で何よりですわ」


 レイリアは自身の魔力全てを失いかけるほどの代償を払い疲労困憊な状態だったが、心配そうに自分を覗き込むライナスと、その手に握られた炎の剣を見ながら、頭の中ではこの状況の分析を始めていた。


 レイリアは、呪いが解かれ生まれ変わった炎の剣に注目していた。その剣は、ライナスの持つ類まれなる炎魔法の力を、本人のコンプレックスを払拭し、かつ安全に制御し利用できる手段であることに気がついたのだ。


(あの剣があれば……バカ王子は魔法へのコンプレックスを気にすることなく、規格外な炎魔法を使える。しかも、私が命懸けで呪いを解いたという事実は、彼の心の中で揺るぎない恩義となっているはず。私は、バカ王子の炎の力という最大の戦力と、私への恩義という最強の切り札を、同時に手に入れたようなものだわ!)


 ​レイリアは、偶然とは言え、自身の計画をより安全に成し遂げるための力を手に入れたことに、満足を覚えた。


「ライナス様!」


 レイリアは、スージーの支えを借りながら立ち上がり、ライナスに呼びかけた。彼女の顔は煤で汚れていたが、その瞳には、祖国を救うための揺るぎない決意が宿っていた。


「その剣は、『私たち』が命懸けで手に入れたものです。その剣と、ライナス様の力があれば、私たちの旅路はより安全なものとなり、魔王討伐に何歩も近づいたと思いますわ」


 レイリアの計画は、今、「魔法剣」という、誰も予想しなかった武器を手に入れ、新たなステージへと移行したのだった。

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