第12話 伝説の剣、暴走する炎
ライナス一行は、ベスタ村の裏山にある「試練の遺跡」へと向かった。遺跡は、苔むした石畳と崩れかけた壁が続く、静かで薄暗い場所だった。
多くの者が訪れるということもあってか、遺跡の中では、特に魔物などと出くわすこともなく、すんなり進むことができた。しばらく進むと、そこには苔むした岩盤に、確かに一本の剣が柄まで深く突き刺さっていた。その剣は、装飾こそ簡素だが、見る者に威厳を感じさせる雰囲気を醸し出していた。
(何かしら? あの剣の周りの空気だけ淀んでいるように感じる。ベスタ村の村長が言うには、多くの者があの剣を抜こうとここを訪れているそうだから、剣に危険はないはずなのだけど……)
レイリアが伝説の剣を前に、訝しげに考え込んでいることなど気にもとめず、ライナスはその剣を一目見るや否や、青緑色の瞳をキラキラと輝かせ、にわかにはしゃぎ始めた。
「見ろ、レイリア! これこそが、伝説の剣に違いない! この剣を抜くことこそが、真の騎士、真の勇者の証明となるのだ!」
ライナスはそういうと、一直線に剣の刺さった岩へ走り出した。
レイリアはライナスの軽率な行動に、慌てて警告を発した。
「ライナス様、お待ちください! その剣の周囲の空気……どこか不自然です! 呪われた武器の可能性も……!」
レイリアは、直感的にその剣から危険な力を感じ取っていた。しかし、ライナスの頭は、「伝説の剣を抜く」ということでいっぱいで、レイリアの声は届いていなかった。
「騎士王の血が、この剣を呼んでいる! 見ていろ、レイリア! 真の騎士が今、ここに生まれるのだ!」
ライナスは、伝説の剣の柄を握り、渾身の力を込めて引き抜こうとした。
その瞬間、ゴゴゴゴ……という地鳴りのような音が遺跡中に響き渡った。レイリアが感じていた、剣の周囲にあった不自然な空気が、ライナスの体内に宿る膨大すぎる魔力によって、パンッという音とともに弾け飛ぶ。どうやら、その剣には何かしらの封印が施されていたらしく、その封印がライナスの規格外の魔力により、打ち破られたようだった。
そして、剣はスッと岩から抜けた。
「やったぞ! レイリア、スージー! この私が伝説の剣を抜いたのだ!」
ライナスが歓喜の声を上げたその時だった。剣の柄から、ライナスは全身の魔力が恐ろしい勢いで吸い上げられていくのを感じた。
「な、なんだ、これは? ……力が、勝手に……!」
伝説の剣は、ライナスの魔力を吸収し、剣身から灼熱の炎を噴き出した。炎は、剣を握るライナスを中心に制御不能な渦となり、遺跡の壁を溶かし、周囲の地面を炎の海へと変え始めた。
「何だこれはっ!? 剣が手から離れない! くそ、どうなっているんだ……!」
「ライナス様! 何をしているのですか!?」
「レイリア! 違う、私は何もしていない! 手が……手が剣から離れないのだ!」
ライナスの言葉を聞いたレイリアの顔が青ざめる。
(あれは……伝説の剣なんかじゃない。呪いの剣だったんだわ。先ほどの剣の周りの不自然な空気は封印……呪われた剣をここに封じていたのね)
ライナスは呪われた剣を手放すこともできず、自身の強大な魔力によって、遺跡ごと焼き尽くしてしまいそうな状況にパニック状態に陥った。
このままではマズイと判断したスージーは、すぐさまライナスに駆け寄ろうとしたが、炎の壁に阻まれ、近寄ることさえできない。彼女は警棒を構え、暴走するライナスを前に、打開策を見つけることができない自分の歯痒さに、下唇を噛み締めることしかできなかった。
一方、炎の渦を見つめていたレイリアの顔からは、策士としてのいつもの余裕が完全に消え去っていた。
(あの剣は、魔力を吸い上げて暴走させる呪いの武器なんだわ! ライナス様の膨大な魔力を解放し続ければ、この遺跡だけでなく、ベスタ村まで炎に包まれてしまうかもしれない! なにより、私たちも無事では済まない……)
そうこうしている内にも炎の渦はどんどん大きくなり、その炎の渦から発せられる熱気は、レイリアの顔をじりじりと焼いていた。
(このままでは、全てが終わってしまう……)
レイリアは、ここにいては危険だという思いと、ライナスを見捨てる訳にはいかないという思い、そして何より祖国を救うという使命の間で、決断を迫られていた。そして次の瞬間、彼女は自己犠牲の覚悟を決めた。
「スージー! ライナス様から目を離さないで! 私があの剣の呪いを解きます!」
レイリアは叫び、炎の熱風をものともせず、暴走するライナスに向かって駆け出した。
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