第11話 ベスタ村と伝説の剣
アルカ村を出て丸一日、馬車は順調に北へ進み、一行は次の目的地であるベスタ村に到着した。
アルカ村よりも山間に位置するベスタ村は、石造りの家が多く、どこか古びた、歴史を感じさせるたたずまいだった。
スージーは、事前に調べていた通り、迷いなく村の中心にある広場に馬車を停めた。
ライナスは、昨日の二日酔いなど既に消え去り、再び目を輝かせていた。
「レイリア、スージー! このベスタ村がどのような困りごとを抱えているのか! さあ、情報収集を始めるぞ!」
レイリアはライナスの張り切り具合を横目に、ため息を一つだけこぼした。彼女の計画は、このベスタ村の困りごとを解決し功績を積むことだったが、ライナスの無駄な張り切りが、またしても予想外の面倒事を引き込んでしまうのではないかと警戒していた。
一行はアルカ村の時のように、まずはベスタ村の村長を訪ねることにした。ベスタ村の村長は、アルカ村でのライナス達の功績を既に知っていたようで、一行を大いに歓迎した。
歓迎ムードの中、コホンと咳払いをし、スージーが本題に入る。
「アルカ村の村長様にお伺いしたところ、このベスタ村は山賊による被害に遭われているとか。差し支えなければ、詳細をお聞かせいただけますでしょうか?」
ベスタ村の村長は深々とため息をついた。
「山賊、でございますか……ええ、まあ、それはもう大変な被害で。この村の近くにある古い『試練の遺跡』のせいで、我々は毎日が気が気ではありません」
ライナスは身を乗り出した。
「試練の遺跡!? なんなのだ、その私のためにあるような名前の遺跡は!」
村長はライナスの意味不明な発言に首を傾げた。
「なんなのだ、と言われましても……。昔からそう呼ばれている遺跡がありまして、そこには伝説の剣が祀られているのです」
村長の話はこうだった。ベスタ村の裏山には、遠い昔、騎士王と共に魔王を倒した仲間が残したとされる剣が、岩に突き刺さったまま眠っている遺跡があるのだと。その剣は『真の騎士のみが抜ける伝説の剣』として、このベスタ村に代々語り継がれているのだという。
「遺跡そのものは、我々の村には何の害もないのですが……。そこに眠る伝説の剣を抜いて、一攫千金を狙おうとする冒険者まがいのならず者が、毎日のように村へやってくるのです。彼らは遺跡を荒らすだけではなく、このベスタ村のそこかしこで騒ぎを起こしてまして……。挙句の果てには、そやつらが吹き溜まって山賊のような集団を作っているようなのです」
村長は頭を抱えた。
「つまり、今の村の被害の根源は、伝説の剣を狙って集まってきた、ならず者たちなのです」
レイリアは安堵した。
(山賊退治ね。ならず者相手であればスージーがいれば十分だわ。伝説の剣ですって? 本物かどうかも怪しいものなど、私たちには関係ないわ)
しかし、レイリアの考えは、隣に座るライナスの尋常ではない興奮によって、いつものように打ち砕かれた。
ライナスは、身を震わせながら、両手を強く握りしめていた。その瞳は、あまりの興奮にギラついた輝きを放っていた。
「……試練の遺跡に眠る伝説の剣……! 抜けるのは、真の騎士のみ……! これはまさに私に与えられし試練ではないか!」
ライナスは、村長の悩みである山賊の話を完全に無視し、『伝説の剣』という言葉に飛びついた。
ライナスは、ゴブリンロード討伐時に魔法を使用してしまったことへの後悔などなかったかのように、今は伝説の剣を手に入れることしか頭にないように興奮しきっている。
「村長殿! その剣は、私が抜かせていただこう!」
ライナスは立ち上がり、村長に向かって力強く宣言した。
「その剣は、騎士王の血を引きし私のために準備された試練だ! この私こそが、騎士王の血とその信念を受け継ぐ者! 私がその伝説の剣を抜き、この村の騒動の根源を断ち切ってみせよう!」
村長は「え、ええ……試すだけなら……お好きなように……」と困惑している。
レイリアは額に手を当て、深い深いため息をついた。
(ああ、どうしていつもややこしい話になるのよ!)
スージーは一歩前に出て、ライナスに無言の圧をかけようとしたが、ライナスの情熱は彼女の圧さえも跳ね返すほど強かった。
「さあ! レイリア、スージー! すぐに遺跡へ向かうぞ! 私の本当の力を見せる時が来た!」
こうして、レイリア姫の計画は、「伝説の剣を抜く試練」という、極めて個人的なミッションへと、脇道に逸れていくのだった。
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