第6話 村長の悩み
アルカ村で最も立派な、藁葺き屋根の村長の家。夕闇が迫る中、スージーのノックに応えるように家の中から村長が顔を出し、一行は家の中に招き入れられた。
村長はライナスたち一行を応接間に通すと、緊張した面持ちで、中央の席に座る、ボロボロのマントの下に立派な衣装を着た旅人・ライナスを、おかしな人を招き入れてしまったかと、恐る恐る見つめていた。
席に着くや否や、スージーが立ち上がり、丁寧な口調で挨拶を始めた。
「突然の来訪失礼します。私たちは、遠方より参った旅の一行でございます。人助けをしながら旅をしておりますので、このアルカ村でも、困っている方がいれば助けになりたいと考え、まずは村長様にご挨拶に参りました」
その完璧な外交辞令に、村長は安堵の表情を浮かべ、一気にスージーに信頼を寄せた。
しかし、その信頼はすぐに、隣に座るライナスによって打ち砕かれそうになる。
「うむ! 人助けこそ勇者の旅の本分だ!」
ライナスは、興奮気味に村長に尋ねた。
「村長殿! 早速だが、この村に魔王による、被害は発生していないか! もしくは、魔王に囚われし麗しき姫君の情報は!?」
村長はキョトンとした。
「ま、魔王、でございますか? 復活したとは昔聞いたことがありますが……特にこの村には、何の被害も……」
ライナスは途端にしょんぼりとした表情になる。
村長は、ライナスの質問と「勇者」という言葉に戸惑いながらも、何かを閃いたようで、村の困り事について話し始めた。
「あの……その、魔王ではございませんが、実はこの村には、別の困り事がありまして……。村の西にある洞窟に、どうやらゴブリンが巣を作ってしまったようなのです」
村長は不安そうに続けた。
「畑の作物を盗られたり、家畜がちょっかいを出されたり……一つ一つは大した被害ではないのですが、何せ数が多いようで村の者も気にしておりまして……」
ライナスは、その話を聞いた途端、先ほどの落胆が吹き飛んだかのように、瞳を輝かせた。
「ゴブリンだと!? レイリア、スージー! 聞いたか!? これこそが冒険の醍醐味だ! 魔王討伐の前に、雑魚敵で経験値を積む! 勇者の物語の定石中の定石ではないか!」
ライナスは突然立ち上がり、村長に向かって熱弁を振るい始めた。
「村長殿、安心するがいい! 我ら、通りすがりの旅人が、洞窟に巣食うゴブリンとやらを一掃してしんぜよう!」
その高ぶりすぎた声と態度に、すぐ隣にいたスージーが、すかさず無言の肘打ちをライナスの脇腹に見舞った。
ゴッという鈍い音と共に、ライナスは「ぐっ」と声を詰まらせ、マントの中で体をくの字に曲げた。スージーの表情は変わらないが、その肘には格闘技の達人としての容赦のない重みが込められていた。
「ライナス様、もう少し静かにお願いします」
スージーは淡々と言った。
ライナスの騒がしさと、スージーの実力行使に、レイリアは疲労のあまり、思わず深いため息をつきたい衝動に駆られたが、すぐに気を取り直し状況を整理することにした。
(ゴブリン? ……ちょうどいいかもしれない)
レイリアの頭の中で、帰国計画の歯車が回り始める。
(ゴブリン程度なら、「城壁を越える戦闘力を持つ」と言われるスージーに任せれば問題ないはず。バカ王子には格好だけつけさせて、すぐに『今回の功績をゼイラム王に報告するため、一旦王都へ帰還しましょう』と説得できるんじゃないかしら。これなら『村を救った』という手柄を上げると共に、魔物を討伐するという成功体験も得られる。バカ王子も喜んで納得するかもしれないわ!)
レイリアは満面の笑みを村長に向けた。
「村長様。話は承知いたしました。私たちの旅の目的は、困っている人々を助けることです。そのゴブリン退治、私たちにお任せください」
こうして、ライナスの真実の愛を探す旅の最初の標的は、魔王ではなく、レイリアの帰還計画の第一歩として、洞窟に巣食うゴブリンに決定したのだった。
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