一子相伝

2ーKA(4-BUの娘)

一子相伝

 えぇ~、まいど馬鹿々々ばかばかしいお笑いを一席。

 世の中には『なくて七癖、あって四十八癖』と言う言葉もありますように、人は自覚の有る無い関わらず色々な癖があるもんで御座いましてぇ……。

「えぇ~っと、ふうかさんや、おめぇさん人には言えねぇ恥ずかしい癖なんかはあるのかい?」

「べらんめぇ、おいらには人に言えねぇような癖があってたまるかってんでぇ」

 ……。

 ……。

 落語風に書いてみようかなぁって思ったけど、面倒臭くなったので元の口調に戻しますね。


 人には様々な『癖』があって、他人から見ても全然気にならないものから、一緒に居るだけで『仲間だと思われるから離れて!』って恥ずかしくなるようなものまで、それはもう多種多様にある訳ですけど。

 中でも、ずっと自覚が無かったのに急にお友達から『それ……恥ずかしいからめた方がいいわよ』とか『私まで同類だと思われたくないから止めて』なんて言われちゃった日にゃ~もう、マントルまで穴を掘って入りたくなるくらい赤面しちゃいますよね。


 ただ私の場合は、自覚はあるけど他人の前では出来ない『癖』と言うのがあって……。

 いえいえいえ、別に恥ずかしいとかじゃなくて、『一子相伝』だから血の繋がらない者には見せてはいけないと言うおきてがあって、もし見せてしまうと記憶を封じられたり、指を吹き飛ばされたりしちゃうんですよ!

 ……。

 ……。

 って中二病設定は置いといてぇ。

 でも、母から『技』を受け継いだのは本当なんですよ。

 ただ、それを使うと父に滅茶苦茶怒られるんです……。

 でもでもでもでも~~~たいめられないので、一人で食べる時にはコッチョリと。

 ……。

 ……。

 あっ……食べ物に関する癖だってバレちゃった……。

 まぁいいでしょう!


 こうなったら仕方がないので、私が母から一子相伝で受け継いだ技の名をとくと聞けぇえぇぇ! 

 その名は! ジャカジャン♪

後味極上満足拳めっちゃおとくけん!』


 あっ……今笑ったでしょ!

 本当に本当にこの技は凄く幸せを感じる事が出来るうえに、めっちゃ応用が効いてお得なんですからね。


 例えばカツ丼を食べる機会があるとしましょう。

 手順としては、まず『カツ丼の並』を注文します。

            はいっ↑ここ大事ですよぉ、テストに出ますよぉ!


 あくまでも注文するのは『大盛』じゃなくて『並』なので気を付けて下さい。

 でぇ、目の前に『カツ丼の並』が運ばれて来たら一礼をし、上に乗ってる『トンカツと卵とじ』をどんぶりの奥へと寄せます。

 すると手前には、おつゆが染み込んだ美味しそうなご飯が姿を見せますよね?

 そのご飯だけをお口に運び。

 モグモグモグモグモグモグモグモグ……。

 更に小さい子が砂場でトンネルを掘るように。

 ホリホリモッキュモッキュホリホリモッキュモッキュ……。


 そうしてご飯が半分以下になるまで食べ進めて……。

 さぁ、いよいよ本番ですよ!

 残った半分のご飯と、えて食べずに寄せていたカツ丼の具を掻き込むように。

 ガツガツガツガツガツガツガツガツ!


 すると、何と言う事でしょう~。

 お口の中には『具がたっぷりカツ丼』が溢れ、食べ終わる頃には『具がたっぷりカツ丼で満腹になった』って、そう脳への情報も書き換えられて、満足な気分のまま後味の余韻を楽しめちゃうんですよ。

 料金を足して『大盛』にする必要なんてありません。

 『並』で十分じゅうぶん満足出来るんです。

 なんてお得なんでしょう~。

 それに、これはカツ丼だけじゃなく、牛丼でも、親子丼でも、海鮮丼でも応用できちゃいますからね。

 ……。

 ……。

 って、何ですその目は……。

 まだ私に伝えられた秘技を疑うんですか?

 いいでしょう、ではもっと身近な応用を教えてあげましょう。


 まず『あんパン』を一つ用意して下さい。

 一口目をアムッって齧ると、少しだけ餡に届いて『ほんのり甘いパン』が味わえますよね?

 そのまま横にずらしてアムッ……。

 さらに横にずらしてアムッ……。

 そうやって一周ぐるっとアムアムしていきます。

 すると、何と言う事でしょう~。

 中心の餡と上下の薄いパンだけが残り『あんこたっぷりパン』が現れたではないですかぁ!

 あとはそれを。

 ガツガツガツガツガツガツガツガツとむさぼるように食べれば、『あんこたっぷりパン』で満腹になったと記憶は改竄され、脳は幸福感で満たされちゃうんです。


 これも、あんパンだけじゃなく、クリームパンやジャムパンにも応用出来て、幸せな『パン食生活』を送れるようになっちゃいますよ。


 いいんです……。

 例え人には理解されなくても……。

 例え人前では使えなくても……。

 例えこんな食べ方が親族の中で私だけになろうとも……。

 私は母から受け継いだ この『一子相伝の秘技』を、いつの日かこの胸に抱くであろう我が子に伝えるまで、人目を避けてコッチョリと鍛え続けるわよぉ~!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一子相伝 2ーKA(4-BUの娘) @4-BU

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ