第2話 趣味
「鍵島くんのご趣味はなんですか?」
内村さんとクラスで昼ごはんを食べていたら、昔ながらのお見合いの初手みたいなことを言われた。
「え?」
「いや、いつも私ばっかり喋ってるから、鍵島くんの話も聞こうかと思って」
確かに内村さんが喋り、俺が聞き役に徹することが多い。
1を聞いたら100返答する内村さんは聞くよりも、話す方が断然向いているから。
ちなみに、俺は逆だ。
聞き上手なんてレベルには達していないが、人の話に適切なタイミングで相槌を打つのは心地いい。
リズムゲームをやっているみたいで。
「で? 趣味は? やっぱり読書? あ。でも運動得意だからそっち系?」
「んー……」
趣味……。趣味ねぇ。
小説を読むのは、まぁ好きだとは思う。
でも俺の場合は面白くて読んでいるというより、時間を潰すために読んでいる側面が強い。
文庫本1冊800円で平均6時間は暇を潰せるコスパの良いアイテムとして捉えている。
そんな奴が読書が趣味だとか言い出したら本当の読書家からお叱りを受けそうだ。
運動系はもっと遠い。
得意なことと好きなことは一致しない。できることなら1歩だって動きたくないくらいだ。
そうなってくると……。
「特に無いかなぁ」
我ながらつまらない奴だ。鍵島京也。
そんなんだから、友達がいないんだよ。
内村さんにボッチ回避同盟の契約を切られても仕方がないな。こりゃ。
「そっか。じゃあ、一緒に探そう」
しかし、内村さんは呆れることなくそう言ってくれた。
「好きとかじゃなくてもいいからさ。ちょっと興味あることとかはあるんじゃない?」
ここまでしてくれているんだ。ここで再度スカした返答は許されない。
真摯に向き合ってくれた相手には、それ相応の態度でいなくては。
「ちょっと待ってもらっていい? 今考えるからさ」
「もちろーん」
そう言って、内村さんは自分の弁当に向き合って卵焼きをモグモグと咀嚼した。美味そう。
さて。
あんまり待たせても申し訳ないから、早めにそれっぽいものを考えないとな。
興味のあるもの……女性の身体?
いやいや。そうじゃない。それだけは違う。
もっとこう、知的好奇心がくすぐられるみたいなやつだよ。
なんか無いか。
なんか無いか。
なんか無いか。
3分経過。
……無いな。
これは、思ったより重症なのかもしれない。
俺は何が楽しくて生きているんだろう。
17歳にして枯れているじゃないか。
助けを求めるように、内村さんを見る。
いつまでも無言の俺に苛立っているわけでもなく、綺麗に弁当を食べ進めている。
ホント、なんでこんな良い人に友達がいないんだろうと本気で疑問に思う。
そこで、やっと自分の興味のあるものに気づく。
「内村さんだ」
この不思議な人に、俺は惹かれている。
話も面白いし、ボッチ回避同盟という素晴らしいシステムを開発したこの人は見ていて飽きない。
「ってことは、俺の趣味は内村さんと話すことだな」
俺にしては綺麗な結論に着地できたと思ったのだけど、内村さんの表情はほんの少しだけ不満そうだ。
「……鍵島くん」
「はい」
怒られるのだろうか。
また、俺は何かミスをしてしまったのだろうか。
「そういうの、あんまり他の女の子に言わない方がいいよ。私だから勘違いしないでいられるけど……」
言っていることがイマイチ分からないけど、注意を受けていることは分かった。
こういう時は、とにかく謝るに限る。
「ごめん。気をつけるよ」
「……ならよし」
そい言い終わり、内村さんは最後の一口である唐揚げをゆっくりと味わった。
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