第3話 見た目
「え? メガネなのに勉強苦手なの?」
「はい。今、全メガネっ子を敵に回しましたー」
なんてこった。
今の時代、メガネをかけている人の数は計り知れない。俺はとんでもない勢力を敵に回してしまった。
何故、こんな失言をしたのか。
それは10分前まで遡る必要がある。
\
今日の5時限目の数学の授業は、先生の体調不良で自習になった。
生徒からしたら、自習ほどラクな授業は無い。
しかも、今回は監視する先生もいないときた。
これは、俺でもテンションが上がる。
要するに、浮かれていたのだ。
半年前の俺なら読書に当てていた時間だが、今は内村さんと机をくっつけて自習をしている。
その方が友達っぽいから。
さらに上機嫌になった俺は、いつもより問題集を解くスピードも上がっていた。
しかし、どうしても解けない問題にブチ当たる。
習った公式をどう組み合わせても分からない。
ついにきたと思ったね。
先生ではなく、クラスメイトに勉強を教わる日が。
今までは、1人で頭と教科書をこねくり回すか、恥ずかしさを抑えて先生に聞くしかできなかったけど、今だったらできるじゃないか。
友達っぽいことをしようとしている同士がいるから。
「内村さん。この問題なんだけど……」
「は? 私に分かるわけないじゃん」
即答された。
問題を見るまでもなく、即答された。
「鍵島くん、確かこの間の中間テスト学年17位だったでしょ。そんなレベル高い人が解けない問題なんて、私は逆立ちしたって解けない」
俺としたことが、内村さんのメガネに黒髪ロング。さらに制服を着崩していない真面目っぽい見た目に引っ張られて、勝手に成績上位者だと決めつけていた。
人を見た目で判断してはいけませんと、耳がタコになるくらいに聞かされる、この多様性の社会でその思考はマズい。
そのミスと、先程までアドレナリンドバドバ状態だったのも相成って、冒頭の失言につながる。
「え? メガネなのに勉強苦手なの?」
\
「本当に申し訳ありませんでした」
「もういいよ。そんなに真摯に謝れると、なんかこっちが悪く感じてくるよ」
どう考えても俺が悪かったため、立ち上がり不倫をやらかした芸能人の謝罪会見ばりの頭の下げ方をしたことで、内村さんは許してくれた。
これで、メガネっ子勢力を敵に回さなくて済む。
「素直に謝ってくれた鍵島くんに、私に秘密を1つ教えてあげよう」
「はい」
まだ、謝罪モードから戻れていない俺は敬語で相槌を打つ。
「この、いかにも優等生って感じの見た目ね。わざとやってんだ」
「なぜゆえに?」
さらに、飛び出してきた秘密が理解しづらい内容だったので変な口調になる。
「いやさ。私って可愛いじゃん?」
確かに可愛い。
分厚いレンズで分かりにくいけど、SNSで踊ってる女性とかよりも顔のパーツが整っている。
「でも、こういう優等生!って感じのファッションしておけば、面倒な女子のトラブルに巻き込まれにくいのさ」
女子のトラブル。
それは、誰が誰の彼氏を取った。みたいな話だろうか。
想像しただけで胃が痛くなる。
そうか。そういうタイプの苦労をしてきたのか。
なんとも言えない気分になってくる。
内村さんが損をするのはなんか……落ち着かなくなる。
「流れで聞くけどさ、鍵島くんはなんで赤髪ピアスなの?」
「ん? 格好いいから」
この髪色とピアスのせいで、先生に目をつけられることがある。
だから、黙らせるために勉強を頑張っているのだ。
中間は17位だったから、期末は10位以内に入りたいな。
そうすれば、もっと堂々と自分の格好いいを貫けるはずだ。
「……凄いね。ホントに凄いよ」
褒められて嬉しいけど、そんな2回も言うほどのことだろうか?
俺は、内村さんみたいに顔がいいとは言えないから、自分が格好いいと思うアイテムに頼っているだけの話なのに。
「鍵島くんは、そのままでいてね」
「……? うん」
進化しないで、そのままでいいのなら、そんなに難しいことではない。
俺は軽く頷いた。
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