五節舞とお迎え。

昨日無事に新嘗祭にいなめさいを終えた翌日、街にまった五節舞がある。

4人の舞姫が舞う。

春宮さまの妹君の二の君、大納言の一の君、伊勢の国の守と播磨の守の姫君達4人で舞うらしい。

早朝より、若菜さまと雪華の2人がかりでこの日のためだけに用意された装束に着替える。

皇后様と晴美さまから頂いた扇と菊の髪飾りも忘れずに付ければ完成。

足りない髪の毛は付け足しているので、問題ない。

元々髪の毛はずっと伸ばしているが、皇后様の親戚筋となるともっと髪が長いのが当たり前だという。

干し桃と白湯を飲んで一息をつく。

正直眠たいが、そうも言ってられない。

今回、雪華が私付きの女房として一緒に参内する。

護衛も内裏から派遣されるらしいから表面上は問題ない。

しかし、用心に越した事はないから神将達にも協力をしてもらう予定だ。

今の所問題があるとすれば、私の名前だ。

仮の名を名乗るにしてもいまだに決まっていない。

単純に本名の名前の一部をとってもいいのだが、そこから本名がバレた時が最悪だ。

名前は短い呪いなのだ。

迎えが来たと教えてくれたのは、朱桜で扇で顔を隠しながら玄関へと向かう。

背後には、青にぃと朱桜がついてきている。

私の名前もだけれど、青にぃの名前も早く決めないとな。

と頭の片隅で考える。

青にぃのイメージに近いものにしたいので、色々と私の中で考え中だ。

琥珀はあの一件のあと謝罪にきて、そのあと神将達の長的位置にいる翁の命で謹慎中らしい。

それが解けるのが、朱桜も言っていたけれど私が喚んだ時だそうだ。

不満を言わずにきちんと守っているのは私に嫌われたくないからという理由らしく、怒るけど嫌いにはならないのにな。というのは秘密だ。

玄関まで行くと、予想外の人物が立っていたので思考が現実に戻された。


「・・・・・・・何をなさていらっしゃるのですか?宮さま。」

「おはようには少し早いかな?主上の命でお迎えにあがりました。」


あぁ、だから若菜さま達が慌てていたのね。

お迎えの使者が春宮さまだとは誰も思わない。普通は絶対に来ない。


「ありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。」


口元を扇で隠しながらお辞儀をする。


「っ・・・・と・・いや、菊華きくかの君と呼ぼうか。よく似合っている。」

「お褒めにいただき、光栄です。」


優しい笑みを浮かべた春宮さまに一瞬どきりとする。

褒めていただいた事に対してはお礼をちゃんと言う。

社交辞令だったとしても。

しかし、身内や神将達以外に褒められるのは久方ぶりで少し恥ずかしい。

“菊華“は秋を指す言葉で、夏の終わり頃に生まれた私としてはいいのかなと思う。


「“菊華“は皇族に縁があるものだし、母上が後見を務めるのだから妥当だと思うのだが、嫌だったか?」

「いいえ。そんな事はございません。それでは菊華で、この姿の時はよろしくお願い致します。雪華、いきましょうか。」

「はい。姫さま。」

「春宮さま、よろしくお願いいたしますわ。」

「あぁ。」


春宮さまに先導されながら牛車に乗り込むと大内裏へとのんびり出発した。

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