青龍の追憶

私がお仕えするのは、小さな姫君。

初代の主人である晴明を気に入り、彼の死後も彼の地に連なるものに、仕えたり見守ったりしてきた。

中には相容れぬものもいたが、それでもそれなりの付き合いをしてきた。


時代が変わり、世の中も動き、同胞達もそれぞれつがいを見つけたりとする中で、晴明と同じ波長を神界で感じすぐ様、下界に見に行った。

そこに居たのは、生まれたばかりの可愛い赤子で、その産声は神界まで届いた。

そして直感で、“見つけた”という言葉が溢れた。

その命にすごく心が動いた。

あの時から、生涯護り抜くと決めた。


成長を見守る内に同胞のひぃ様への接し方がとても距離が近い。

それが当たり前の環境で育ったため色恋沙汰はひどく鈍く育ってしまった。

それでもそんなひぃ様には婚約者の候補が何人もいた。

今代の当主の子供達の中で1番落ちこぼれと言われているが、我々から見れば1番力が強く同胞の全員が次代の当主だと認めた。

唯一の姫という事で皇族出身の母君から礼儀作法や立ち振る舞いなど女性として、大人として困らないように必要なことは何でも教え込まれていた。

父君からも、力の差など関係なく兄君たちと同じ教育をされた。

それに加えて、知識欲、好奇心旺盛なので様々な知識や舞など沢山吸収していった。


18年待ち、とうとう成人の儀式をひぃ様が迎えていた。

歴代の玉依姫と我々から呼ばれた2人は、それぞれの時代である程度事を成したあと、自分たちが生まれ落ちた時代に戻った者と戻らない者と別れた。

今回の姫君がどのような決断をしようとも十二神将は、ひぃ様と共にすると決めている。

どの時代にいようとも我らの主人は変わらない。

おそらく晴明の時代の近くに行くであろうと、あらかた予想をつけていたので雑学としてこの時代の生活などを教えていった。

それに見合う知識、礼儀作法、技術全て問題はない。


そしてやはり、ひぃ様が飛ばされたのは晴明の時代だった。

この時代にきて、本来の力がひぃ様の体を巡り全ての力を使う事ができるようになった。

様々な術者としての仕事をしても、それを追い越すように力が溜まり続ける。

やはり、晴明の影響もあるのだろう。

朱雀と白虎は時間をかけて、ひぃ様から新緑を自分の体に吸収している。

あと、口以外からのキスでの神力の受け渡しは今更抵抗がないということで、頻繁に行う受け渡しているところを見るようになった。

傍に居たいけれど、近づきすぎてもいけないだろうなどと考えていれば、ひぃ様との距離感をうまく決められないまま、気がつけばひぃ様と出かけることになっていた。

私自身が、ひぃ様の夫と言う事が予想外なところでバレた。

バレてしまえば、本人は理由を聞きたがるに決まっている。自分が納得するまで質問や確認をとってくる。

そもそも安倍一族は、博愛精神が強く自己の恋心を自覚するまでは、皆同じような距離感で接する。

ひぃ様にバレた事で、どう説明しようかどこから話そうか、どう接しようか考えている間に、目元にキスをされる。

流れてくるのはひぃ様の神力。

そのまま深く、甘い心気がもっと欲しいという自分の欲深さに内心笑ってしまった。

それと同時に少し離れた所から飛んでくる、嫉妬まじりの殺気。

木々で姿は見えなくともある程度誰なのかが分かってしまった。

皇族しか入れぬこの庭で、帝以外に入れるのは彼の血を継ぐものたちだ。

私とひぃ様の存在を知るのは皇太子である春宮のみ。

ひぃ様には気づかれぬように、ため息をつくと少し困った表情をしたが逆に怒られてしまった。


「青にぃも愛称を考えようかな。」

「え?」

「だって、青にぃだけでしょう?私が愛称をつけてないの。“青にぃ”も愛称みたいなものだけれどね。」


なんて笑う表情が可愛らしく、自然と触れるだけのキスをした。

朱雀のいうとおり、あの皇子は色々と厄介な存在になりそうだと思う。

気づかぬふりをして、庭園をしっかり見て回った後安倍邸に戻った。


明日は五節舞がある。非常に嫌な予感しかしない。

そんな私の思いも知らず愛しのひぃ様はあれこれと私の名前を考えてくれている。

一体どんな名前をつけてくれるのだろうか?

珍しく緩む口元を手で覆い隠しながらも、己の想いを再度自覚する。


ひぃ様の傍に、夫として早く傍に居たいと。


この想いを伝えるのはきっとずっと先の未来だろう。

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