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春宮さまと同じ牛車に揺られながら、心地良い沈黙が流れている。

が、先ほどから少し気になることがあり狭い車内で距離をさらに縮めた。

前髪を覗き込むのは失礼かと思ったが、はっきりさせないと気が済まない性格たちなので、多めに見てもらいたい。


「春宮さま、近頃眠れていますか?」


じっと顔を覗き込めば、幾分かほおが赤くなるが気にしない。

少し目の下のクマが気になったのと、顔色もあまりよろしくない。

初めて会った時の状態に似ていると思い、さらに気になり出した。


「よく分かったな。周りの者は誰1人気づかないのに。いや、晴明は違うか・・・・。菊華の君や朱雀殿達の気配が無くなった途端、急に・・・・その、寂しいと思えてね。中々ゆっくり眠れてない。」

「・・・寂しい、ですか?」


賑やかな周りに人の気配が常にあることになれて、それが急に無くなったとすれば・・・・、私でも寂しいと感じるだろう。

私にとって青にぃ達が常に傍に居ることは当たり前のことで、それが急に無くなってしまう、居なくなってしまう事は違和感でしかない。

殿舎の空気・・・・・、結界が破られた気配はない。でも少し気になる。

口元に手を当ててしばらく考え込む。

通常奥義で顔を隠すものだろうがあいにく今は春宮さまと2人きりだ。

時平の時に素顔を晒しているので、私としてはバレた時点で気にならない。

まぁ、公の場でない限り私は、素顔を隠す必要はないと考えている。


〈朱雀、聞いていたよね?〉

〈あぁ。〉

〈悪いのだけれど、梨壺に言って異変がないか調べてくれる?できれば私も直接見に来たいのだけれど、先に様子を見てきてくれないかしら。〉

〈分かった。〉

〈よろしく。〉


にっこり笑みを浮かべると、春宮さまの袖を引き強制的に膝枕をすると目元を手で覆う。


「菊華!!」

「苦情は受け付けません。私がおりますので大丈夫ですよ。春仁はるひと親王殿下。」


何か言いたげな気配を感じたがそのまま口を閉ざした。

よく眠れるおまじないをすると、しばらくして体の力が抜け寝息が聞こえてきた。

のんびり向かっているので、内裏までまだ時間はかかるだろう。

その間だけでも、仮眠になればいいかなと思った。


梨壺の空気が変わった原因。

まさか、あの者達の影響だろうか?

ここ数日の情報を元に色々と対策を考えていくことにする。

最悪晴明様に相談しようと決めると、眠る春宮さまに視線を落とした。




時平が、皐月のいう名の姫だと発覚した時私はどうしようもないほど感激に震えた。

表面上は変化は無かっただろうが、母上あたりが今の俺を見ればすぐに分かるだろう。

同時に彼女の傍にいる者達へ対しての嫉妬という醜い感情を自覚してしまった。

彼らが彼女へ向けるのは、親愛、敬愛。

彼らが使える主人に対して、甘すぎるほどの愛。

そして、それを当たり前のように受け取っている彼女は、慣れている。

おそらく、いや確実にその環境下で育ってきたのだろう。


先ほど父である今上帝に呼ばれ、次第を尋ねれば母が傍に座っていた。

体調が、最近は良くなっているという。

特にひと月ほど前から。


ひと月前というと、彼女が結界を張り梨壺を綺麗にして暮れたあたりだ。

その後も、内裏内で結界を強化していたり、承香殿で舞を舞っていたりそういった姿を見てきた。

そして、父に呼び出された内容というのが、五節舞の当日安倍邸へ彼女を迎えに行くというものだった。


「時平・・・・、彼女は来るのですか?」

「先ほど了承の文が届いた。としての参内となる。私の客として呼ぶから、春宮が迎えに行くのが妥当だろう。母后と彼女へ贈る品を選んでやってくれ。」

「贈り物ですか?」

「かの姫は、我らと同じ血を宿しておる。かの姫が本来いる時代は帝の姪に当たると本人からも聞いておる。それなりの品を選ばねばな。」

「皇族の血を引いている・・・・。しかし彼女は晴明と同じだと。」

「かの姫は、父を安倍家直系の陰陽師、母直系皇族の内親王との間に生まれた姫であるということだ。何より、皇族の宮が筆頭婚約者として、大事に育てられてきた。本人はあまり興味がないようだがな。」


父が衝撃的な言葉を残し室を出た後、女房たちがさまざまなものを俺と母の前に並べると、母が人払いを命じた。

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