5

「時平!聞いているか?」

「あ、申し訳ございません。聞いておりませんでした。なんでしょうか?」

「承香殿には、今からいくのか?」

「いいえ。今日は配下のものを使いに出しましたので、大丈夫です。明日以降に行ってまいります。」

「その時は私も行こう。時平と一緒にいた方が良いのだろう?」

「基本的にはそうですね。」

「では、この殿舎に寝泊まりするのだろう?」

「はい。なので、身舎もやに近い廂を貸して頂ければ。」

「好きなところを使って良い。」

「ありがとうございます。」

「必要なモノは、今から揃えさせるから他に必要なものがあれば、言ってくれ。」

「わかりました。」


にっこり微笑めば、春宮さまの頬が若干真っ赤になっていることに気がついた。

祓った反動で熱でも出したかな??


「春宮さま、失礼致します。」

「なっ!」


そろりと近寄り、春宮さまのおでこに手を当てて熱を測る。

熱は、若干??


「春宮さま、今日は怪我の有無を確認していただいてお休みしましょう。ちょっと待っていてくださいね。」


そう言って、テキパキと寝る準備を始める。


〈朱桜、典薬寮の医者くすしに往診を行って貰うように呼んできてもらえる?〉

〈分かった。〉

〈青にぃ、悪いけれど春宮さまの着替えをお願いしてもいい?〉

〈ひぃさまが望むなら。〉


朱桜と青にぃに指示を出すと、2人はこの時代にあった格好をして姿を現した。


「春宮さま、私の配下の朱雀と青龍です。基本的には姿を消して私の傍に控える事が多いかと思いますが、今回は2人に典薬寮の医者に往診を頼むこと、着替えを手伝ってもらうために姿を現してもらいました。2人ともお願いね。」


とそれぞれに指示を出して私は、一度部屋から出て自分が寝る廂を決めて雪華と一緒に準備をする。

必要なものは先ほど女房の方が軽いものは運んでくれた。

重たいものは、雑色の方が運んでくれたものを雪華と準備をする。


「ひぃ様、終わりました。」

「ありがとう。青にぃ。ここを雪華と一緒に整えてもらっていい?重たいものがあるから。」

「あぁ。」


再度春宮様の元へ戻れば、寝る準備をした状態で座っている春宮様がいた。


「時平、朱雀殿と青龍殿は四聖獣の朱雀と青龍か?」

「はい。私のお守り役です。四聖獣の4人は常に私の傍に控えていてくれて、必要があれば姿を現してくれます。」

「そうか。少しずつ時平のことを教えてくれるか?」

「もちろんです。春宮様の事も教えてくださいね。」

「あぁ、そうだな。」

「まずは、往診を受けてゆっくり休んでください。」


しばらくして、医者を連れて戻ってきた朱桜は私の後ろに控え、往診をしてもらい疲れからの熱だろうと判断をされた。

転倒した際の怪我もないようで一安心だ。

医者が殿舎を辞したあと、春宮様の目元に手を当てて、呪いをする。

これでゆっくり休めるだろう。

春宮様が寝ている間に琥珀が帰ってくれればいいのだけどなぁ。と考えつつ自身の部屋に戻り、琥珀が帰ってきたら会議だな。と思いつつ、雪華にお世話されながら、うとうとしだした。


少しだけ、目を閉じよう。

少しだけ。


〈・・・・・・・き、皐月、起きろ。〉


名前を呼ばれて沈んでいた意識を浮上させた。


〈ん、私寝てた?〉

〈しっかりと。〉

〈それよりも、琥珀は戻って来た?〉

〈あぁ。〉

〈じゃあ、ちょっと情報共有しようか。琥珀どうだった?〉

〈使役はされている感じはしなかった。ただその辺りに溜まっていた負の感情に術を仕込んだ感じだな。ある程度力がある奴だな。〉

〈その仕込まれた術と、大内裏内の大小様々な綻びの開き方は似てる?〉

〈場所による。〉

〈それはやっぱり、舞って結界を張り直した方が良い?〉

〈そうだな。今の皐月の力なら余裕だろう。〉

〈じゃあ、晴明さまに指揮を飛ばす。あと内裏って妖が多いのね。無害そうな彼らから話は聞けないかな?〉

〈どうだろうなー。気まぐれだからな。〉


微妙な反応をした3人に私は別の方法を考えることにする。

結界を貼るとなると明日までに力を貯めなきゃいけない。

ぱぱっと自身の髪の毛を使った式を飛ばす。

寝る前に再度春宮さまの様子を見に行き、治療のまじないをかけて廂に戻ると琥珀にもう一つの姿になってもらう。

ホワイトタイガーに近い姿になった琥珀にぎゅーっと抱きつくとその毛並みに埋まるようにして眠りについた。

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