ごめん、やっぱ無理

カシ夫

ごめん、やっぱ無理

「ごめん。君とは結婚できない」

「え?

 式場の予約……

 両家の顔合わせだって済んだのに?」


 夜のファミレス。結婚間近なカップルの日常的な食事シーンである。


「好きな人ができた」

「えっ……」

「もう呼んでるから。

 ……こっち、こっち」

「どうも~、センパイ。

 ビックリですよねえ?

 でも、こういうコトなんで。

 すみませーん」

「実は妊娠して……」


 後輩女の勝ち誇った顔。

 対する彼女は意外と落ち着いている。


「そう。

 妊娠何ヵ月?」

「三ヶ月ですーw

 もう母子手帳も、ほら」


 得意気に母子手帳を取り出して見せる。


「……ふうん、まだ結婚してないから今の苗字のままだよね。

 父親の名前も入ってない」

「その辺はこれからでーす」

「結婚したら苗字直すわけじゃない?

 一生デキ婚の証拠が残るよね」


 後輩女が苛ついた表情に。


「それにしても妊娠って。

 ナマでヤっちゃったんだー、結婚する予定だったのに」


 今度は彼氏が焦った表情を見せる。


「大丈夫?

 婚約者いるのにナマでヤルような男と子供作って結婚するつもり?」

「は?

 センパイ、負け惜しみですか?」

貴男あなたも大丈夫?

 婚約者のいる男と平気でセックスして、しかもナマでヤラせるような女と結婚できるの?」

「なっ、なんて言いかたするんだよ」


 強気だった二人を前に、彼女はうっすら笑顔さえ浮かべている。


「浮気相手が妊娠したからって?

 ファミレスでいきなり浮気相手を呼ぶとか、別れる相手に全く配慮できないようなクソ男だよ?」

「センパイ、フラれたからって――」

「この子も相当性格悪いよ?

 避妊せず妊娠して。

 先輩の婚約者を寝取りました~ってドヤ顔で出てきちゃうんだから。

 しかも、謝りかたが『すみませーん』ってw

 常識ないおバカちゃん丸出しw」


 もう彼氏と後輩女は呆然として何も言い返せない。予想外の反応に、何を言えば自分達が優位になれるのか知恵が出ないのだ。


「お互い、そんな相手でいいの?

 本当に好きなの?

 婚約者より若くて可愛い子を、婚約者を捨てることに優越感を感じてるだけでしょ?

 でもって、先輩の婚約者を寝取ってマウントとって、いい気分になってるだけでしょ?」


 まあ好きにしたらいいんじゃない、と彼女は笑ってスマホを操作した。


「生配信させてもらったから。

 あなた達、バレバレだったよ?

 だから今日は会社のみんなと両家の両親にも配信見てもらってたの。

 あなたの彼氏にもね」


 彼氏と後輩女は顔面蒼白、ポカンぐち


「ごめん、やっぱ無理だわ。

 あなたみたいな馬鹿な男。

 別れてくれてありがとう」


 晴れ晴れとした笑顔で彼女は席を立った。


 ああ、スッキリ!

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