第43話 双子の告白や
その日の午後。
居住区は珍しく静かだった。
カナメは報告書をまとめるために部屋を出て、ミオは急な連絡対応で端末を手に廊下へ。
アキナもメンテナンスのために別室へ移動し、気づけばリビングに残っていたのは――ハルキと、アオナとピナの三人だけだった。
「……あれ? 気づいたら、私たちだけだね」
アオナがきょとんとした顔で辺りを見回す。
「ほんまやな……なんや、急に静かになった気ぃするわ」
ハルキはソファに腰を下ろし直し、落ち着かない様子で頭をかいた。
「偶然、ですね」
ピナが小さく微笑む。
「護衛のお二人が同時に席を外すなんて、珍しいことです」
アオナが、ふいに真剣な表情を見せた。
「ねえ、ハルくん」
彼女はソファから身を乗り出し、まっすぐにハルキを見つめる。
「私、ずっと言いたかったことがあるんだ」
「え、な、なんや急に」
ハルキは思わず背筋を伸ばす。
「配信で一緒に話してるときも楽しかった。
でも、こうして直接会って、日常のハルくんを見て……もっと好きになった」
その言葉は、あまりにも真っ直ぐで、飾り気がなかった。
「……姉さん、先に言うんだ」
ピナが小さく息をつき、静かに続ける。
「私も同じです。
配信者としてのあなたじゃなくて、日常のあなたに惹かれています。
落ち着きがなくて、慌ててばかりで……でも、だからこそ守りたくなる」
ピナの声は淡々としていたが、その瞳は真剣で、揺るぎなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれや!」
ハルキは両手を振って立ち上がる。
「二人して、そんな真顔で言われたら……オレ、どう反応したらええんかわからんやん!」
「反応なんていらないよ」
アオナが笑う。
「ただ、私たちの気持ちを知っててほしいだけ」
「……でもなぁ」
ハルキは頬をかきながら、視線を泳がせる。
「そんな真っ直ぐ言われたら、嬉しいけど……恥ずかしすぎるやろ」
「受け取ったあなたが照れるのは自然なことです」
ピナが静かに言葉を添える。
「それだけ、私たちの想いが届いたということですから」
ハルキは真っ赤になった顔を両手で覆った。
「……オレ、ニヤけてまうやろ。二人にそんなこと言われたら」
「いいじゃん、ニヤけてくれて」
アオナがからかうように笑う。
「その顔、ちょっと可愛いし」
「やめぇや!」
ハルキは慌てて手を下ろし、さらに赤くなる。
「……でも、嬉しいんですね?」
ピナが確認するように問いかける。
「……そら、嬉しいに決まっとるやろ」
ハルキは小さく笑い、視線を逸らした。
「ただ、オレにはもったいないくらいや」
アオナとピナは、互いに視線を交わし、そして同時に微笑んだ。
「答えは、今じゃなくていい」
「でも、私たちの気持ちは、もう伝えたから」
扉の向こうからカナメの足音が近づいてきた。
「任谷さん、報告書がまとまりましたわ」
落ち着いた声が響く。
続いて、ミオの軽い声も重なる。
「連絡も片付いたよー。さて、戻ってきたけど……おや?」
扉が開く直前、アオナとピナは同時にハルキへ視線を向け、そっと囁いた。
「忘れないでね」
「私たちの気持ちを」
ハルキはただ、真っ赤な顔で頷くしかなかった。
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