第42話 双子と過ごす一日や

居住区のリビングは、いつもより賑やかだった。

アオナとピナが揃って腰を下ろし、持参した菓子をテーブルに並べている。

「はい、これ! 配信仲間からもらったスイーツなんだ」

「保存効率が良くて、味も安定してるんです。ぜひ一緒に」

アオナが元気よく差し出し、ピナが淡々と補足する。

二人の息の合ったやり取りに、ハルキはただ「お、おおきにな」と受け取るしかなかった。


「へぇ、双子ちゃんたち、気が利くじゃん」

ミオが菓子を摘みながら、ちらりとハルキを見やる。

「ハルくん、こういうの好きでしょ?」

「まあ、甘いもんは嫌いやないけど……」

ハルキは曖昧に笑った。

「任谷さんに差し入れとは、なかなか積極的ですわね」

カナメはグラスを揺らしながら、妖艶な笑みを浮かべる。

「セリナ嬢に続き、あなた方も“訪問”を仕掛けてきた。これはもう、競争の様相ですわ」

「競争って……!」

ハルキは慌てて手を振った。

「オレはそんなつもりやないで!」


「でも、事実としてはそうだよね」

アオナがにやりと笑う。

「セリナさんも動いた。私たちも動いた。

ハルくんがどう思ってるかは別として、周りから見たら“取り合い”に見えるんだよ」

「……やめてくれや、心臓に悪いわ」

ハルキは頭を抱えた。

「大丈夫。私たちは無理に迫るつもりはないから」

ピナが静かに言葉を添える。

「ただ、配信の外で、普通に話したかった。それだけです」


「ふむ……」

アキナが口を開いた。

「観察結果を共有します。アオナさんとピナさんは、任谷さんに対して“恋愛的好意”を示しています。

ただし、行動は段階的で、強引さは低い。護衛二人の心証に悪影響はありません」

「おいアキナ! また勝手に分析すな!」

ハルキは慌てて立ち上がる。

「事実を述べただけです」

アキナは首を傾げる。

「……ほんま、オレのプライバシーどこ行ったんや」

ハルキはため息をついた。


「でも、アキナさんの言う通りだよ」

アオナが笑顔で頷く。

「私たち、ハルくんを困らせたいわけじゃない。ただ、もっと知りたいだけ」

「そう。配信で見せる顔と、日常の顔は違うから」

ピナも続ける。

「だから、こうして訪問したのは自然な流れなんです」

「……自然、か」

ハルキは小さく呟いた。


「任谷さん」

カナメがゆったりと声をかける。

「あなたは“選ばれる側”ですわ。驚きや戸惑いは理解しますが、拒む必要はありません。

むしろ、受け入れることで皆が安心するのです」

「そうそう。ハルくんが気に病む必要なんてないんだよ」

ミオが軽く笑う。

「ただ、私のことも忘れないでね?」

「……忘れるわけないやろ」

ハルキは苦笑しながら答えた。


その後も、双子は居住区でのんびりと過ごした。

保存食材を使った軽食を一緒に作り、未来式のボードゲームを広げ、ミオとアオナが白熱した勝負を繰り広げる。

ピナはカナメと静かに会話を交わし、アキナは淡々と観察を続ける。

ハルキはその中心で、ただ翻弄されるばかりだった。

笑い声と軽口が飛び交う中、彼はふと考える。

――オレ、ほんまにこの時代でやっていけるんやろか。

でも、こうして誰かと一緒に笑えるなら……悪くないかもしれん。

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