第44話 残された余韻や
玄関の扉が閉まる音がして、アオナとピナの姿が見えなくなった。
にぎやかだった空気がすっと引いて、居住区には静けさが戻る。
ハルキはソファに腰を下ろし、思わず大きく息を吐いた。
「……はぁぁぁ。なんや、心臓がまだバクバクしとる」
頬に手を当てると、まだ熱が残っている。
双子の真剣な眼差しと、耳に残る言葉が頭から離れなかった。
「任谷さん」
カナメが戻ってきて、落ち着いた声をかける。
「報告書は提出しましたわ。……それにしても、随分と濃密な時間を過ごされたようですわね」
「な、なんで知っとるんや!」
ハルキは慌てて立ち上がる。
「顔を見れば分かります」
カナメはくすりと笑う。
「頬が赤く、視線が泳いでいる。……まるで好意を真正面から受け止めた人の顔ですわ」
「や、やめぇや! 余計に恥ずかしなるやん!」
ハルキは耳まで真っ赤にして、ソファに沈み込んだ。
「ふーん、やっぱり告白されたんだ」
ミオが戻ってきて、にやにやと笑いながら近づいてくる。
「外で連絡してる間に、そんなイベントが起きてたとはねぇ」
「い、イベントって……!」
ハルキは抗議の声を上げるが、ミオは全く気にしない。
「で、どっちが先に言ったの? アオナ? ピナ?」
「……アオナや」
「へぇ、やっぱりね。あの子、勢いあるもん」
ミオは楽しそうに頷き、さらに追い打ちをかける。
「でもピナも言ったんでしょ? 二人同時にって、なかなかレアだよ」
「……オレをからかうなや」
ハルキは情けない声を出し、顔を覆った。
「補足します」
アキナが人間型の姿で現れ、淡々と告げる。
「アオナさんとピナさんは、任谷さんに対して“恋愛的好意”を明確に表明しました。
任谷さんはそれを受けて、強い喜びと照れを示しました」
「アキナ! 逐一報告せんでええ!」
ハルキは慌てて立ち上がり、アキナの前に回り込む。
「事実を述べただけです」
「事実でも恥ずかしいんや!」
カナメは口元に手を当てて笑い、ミオはソファに寝転がって肩を震わせていた。
「……ほんま、オレばっかり赤っ恥かいとる気がする」
ハルキは項垂れながらも、どこか笑みを浮かべていた。
「赤っ恥ではありませんわ」
カナメが優しく言う。
「それは、あなたが“選ばれる側”だからこそ受ける視線です」
「そうそう。恥ずかしいのは、好かれてる証拠だよ」
ミオが軽く笑いながら言葉を添える。
「……そんなん言われたら、また顔が熱うなるやん」
ハルキは両手で頬を覆い、笑いながら身をよじった。
その夜。
ベッドに横になっても、双子の言葉が耳に残って離れなかった。
「もっと好きになった」「守りたくなる」――その真剣な声が、何度も胸の奥で反響する。
「……嬉しいけど、ほんま照れるわ」
枕に顔を埋めながら、ハルキは小さく呟いた。
そして、眠りに落ちる直前まで、頬の熱は冷めることがなかった。
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