第21話 カナメに聞いてみた

昼下がり。居住区のラウンジ。

ハルキはソファに腰を下ろし、何度も深呼吸を繰り返していた。

「……よし。今日はちゃんと聞いてみるか」


医者に「子作りは済ませたか」と言われ、アキナからは「護衛二人の行動」を淡々と報告された。

頭の中でぐるぐるしていた疑問を、もう誤魔化すわけにはいかない。

「カナメ、ちょっと来てくれるか?」

「任谷さんが呼び出すなんて珍しいですわね」

妖艶な笑みを浮かべ、カナメはゆったりと歩み寄ってきた。


「なあカナメ。単刀直入に聞くけど……オレが寝たあと、寝室に来てるってほんまなんか?」

「……ふふ。アキナが報告しましたのね」

「報告っていうか、丸裸にされた感じや。しかも“酒まで飲んでる”って聞いたで」


「ええ、事実ですわ。護衛として、あなたが眠っている間も安全を確認するのは当然でしょう? ただ……少し、見守りすぎているかもしれませんね」

「見守りすぎって……寝顔をずっと眺めとるんやろ?」


「そうですわね。あなたが寝返りを打つたびに、私は安心してしまうのです。『ああ、ちゃんと生きている』と」

「……なんやそれ。護衛っていうより……」

「ええ、護衛以上の感情があるのは否定しませんわ」

「……」


「驚かれましたか?」

「驚いたけど……なんか、悪い気はせん」

「それならよかったですわ。お酒の件も、ほんの少しだけですの。あなたの寝顔を見ながら飲むと、不思議と心が落ち着くのです」

「……それ、完全に趣味やん」


「趣味と護衛の両立、ということにしておきましょうか」

カナメは妖艶に笑った。


「……なあカナメ。オレ、まだこの未来の常識に慣れとらん。医者から“子作り”とか言われても、正直どうしてええかわからん」

「当然ですわ。あなたは“過去人”ですもの。ですが、私たちはあなたを無理に追い立てるつもりはありません」

「ほんまか?」

「ええ。私はただ、あなたのそばにいたい。それだけですわ」

「……」

ハルキは言葉を失った。


護衛としての義務を超えた、まっすぐな気持ちが伝わってくる。


「……カナメ」

「はい?」


「ありがとな」

「ふふ。どういたしまして」


ハルキは深く息を吐いた。

胸の奥が、妙に熱くて、くすぐったい。

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